しかし、完全に沈む前に手荒く引っ張りあげられた。
パシン!
という乾いた音。
頬に痛みが走り、それと同時に、全てが戻ってくる。
「何やってんだ!」
「は?」
いきなり怒鳴られ、まったく状況が理解できない。
「は?じゃないだろ、シン!」
「へ?」
思いがけないところで名を呼ばれ、目の前にある相手の顔を見る。どうも状況が飲み込めない。
「いつも、ぼぉーっとしてるお前が全力疾走してると思ったら、車来てるの構わずに道路飛び出しやがって。シン、何やってんだ?」
「何だ、クギか・・・」
「何だって、お前ね・・・。てか、クギじゃなくてクヌギね、椚。いい加減憶えてよ。で、何やってんだお前」
「まあ、ちょっと。クギこそ、こんなとこで何やってんだ?」
「え?おれはこれからバイト」
「ふーん。それはお疲れ様、クギ」
「なんかシンに、クギ、クギ呼ばれるとバカにされてるみたいなんだよな」
「みたいじゃなくて、してるんだ。じゃ、俺、急いでるから。明日学校でな」
「・・・・お前さ、我が道を行くにもほどが有るぞ。せめて、命の恩人に礼くらいないのか?」
「ああ、ありがとう椚。助かった。じゃあ、また明日。」
なぜか固まるクギを置いて、俺は走り出す。
彼が呟いた長い独り言を聞き取る事もなく。
「クッソ・・・・・。おれ、シンに惚れちゃうかも・・・。あ~、ズボン穴開いたし、すっげーショック・・・、どうすんだよ。決めた、バイト休も~っと。ったく、あのバカ、絶対に明日何やってたのか吐かせてやる」
思わぬところでクラスメイトに出会った。
彼、椚明彦は中学からの腐れ縁でクラスメイトとして5年目の付き合いだった。
気心が知れた仲とも言うべきか・・・・。
しばらく走ってから、体中が痛い事に気づく。
明日、本気で礼を言った方が良さそうだ。一歩踏み出すごとに、体中に痛みを覚える。
「ッつ・・」
眉間に皺をよせ、頭を切り替える。走る事だけに集中しよう。他は一切考えない。
目指すは、この街で最後まで夕陽が見える場所。
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