気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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結果的に瑞希は約束を思い出した。
このまま順調に行けば彼女の願いは叶った事になる。
過去に来た客のことまで一々覚えておくのは難しい。最初はまったく思い浮かばなかった。
けれど、今考えてみると充分納得のいくことばかりだ。
理由がハッキリしないで、うちの店に来る客は珍しい。
大抵は、「願い」が大きすぎて自分ではどうにも出来ない客が訪れる。
無意識で願っていることでも、話しを聞いていれば自然に分かる。
瑞希の場合は例外だ。彼女は、彼女自身の願いと言うよりも、母親の願いに誘われる形でこの店にやってきた。
だから、彼女に願いを聞いても答えようがなく、心当たりもない。
過去と未来というのも、どちらかではなく
「ママ」が未来へ
瑞希が過去へ
という事だ。
本音を言えば、瑞希への忘却の術は強すぎた。
あそこまで、綺麗さっぱり忘れていたのは予想外だ。予定では、十年も経てば少しずつ術の効果が薄れ、誕生日にはハッキリと思い出し、店の世話にならなくとも成功するはずだった。

「つまり、お前があのお嬢さんを呼んだのかい?」
「・・・そういえない事もない」
翁の言葉にセツイは、感情の篭らない声で返す。

瑞希が、あの時の幼い少女だったと気づいたのは、彼女にまじないをかけた時だ。
最初に名前を聞いた時に、なんとなく引っかかるものがあったが、それは似たような名前を聞いたことがあるからだろうと、気にも留めていなかった。
随分と遠回りをしてしまった。
けれど、これでもう終わりだ。
あの母親も満足するだろうし、少女も納得いくだろう。
後はあの娘次第だ。
夢の見方もあの娘次第で大きく変わる。


「そんな事もあるのだな」
全てを差すような、曖昧な翁の感想にセツイは嫌そうな声色で面倒くさそうに答える。
「だから、言ってるだろう?僕のミスだ」
確かに、普段から店や品物が客を選ぶけれど、客側が自分の意思と関係なく2度も店に来るのは珍しい事だ。
「セツ。何デ、ミスナノ?」
シノの質問でますますセツイの機嫌は悪くなる。
「加減出来なかったのは僕のミスだ。その反動で熱まで出す始末だし」
冷たい、温度差のない声で一息に喋るが、さきほどまでの彼と比べれば、幾分か調子がいいようだ。
「反動?」
「そう。自分でかけた術とはいえ、無理やり解いたのだから、反動の一つや二つ・・・」
だから、ほっといても勝手に下がるんだとセツイは言う。
「セツ?」
「何?」
「存在、忘レテルネ」
「何の?」
「シノガイルノハ、何ノタメサネ?」
「確かに、反動を使い魔に送る事もできるけど、そのためにお前を造った訳じゃない」
セツイの言葉にやや力が篭る。彼にしては珍しいことだ。
まっすぐにシノを見、言葉を紡ぐ。
「シノ?お前自分の名前の意味知ってるか?」
「シノに意味があるのか、テンシ?」
疑問の声を発した翁は心底不思議そうだ。
「普段のは愛称だ」
「シノハ知ラナイヨ?」
セツイはシノの言葉を聞き、一瞬表情を顰めるがすぐにそれは無表情に戻る。
「言ってなかったか?シノは東雲(しののめ)のシノ。つまり夜明けだよ」
「夜明ケ?」
「そう」
「それがどうしたんだ?テンシ」
「夜明けは朝日が昇ること、闇から光りのある世界へ。うちへ来る客の大半は迷いを抱えてる。闇の中をさ迷ってるって言うのは大げさだけど、そんな人たちに、光りを・・・希望を与えるために、僕は使い魔を造った。けして、自分の身代わりにするためじゃない」
「良かったな、シノ。良い名じゃないか」
「ウン。初メテ知ッタヨ」
「じゃあ、テンシ。もう一ついいかい?」
「何?」
セツイの返事はあくまでも、面倒くさそうだ。だが、返事があるだけマシだろう。ひどい時は、まったく答えがないのだ。
「あの、サンタはいつ片付けるんじゃ?」
「ああ、あれ?気が向いたら」
彼らが言っているのは、店のロッキングチェアーに座る人形の事だ。
「気ガ向イタラッテ、セツ。モウ、クリスマスハ過ギテルヨ?」
「知ってる。サンタの服着てないだけマシだろう?何のために着替えさせたと思ってるんだよ」
人形は、店の飾りにと翁が購入してきたものだ。しかし、買ったはいいが仕舞う場所がなく、仕方なくセツイが服を替え、あそこに座らせていた。
「あれ、仕舞うとしたら、庭にある倉庫を片付ける必要があるだろ?嫌だよ、そんな面倒くさい事」
「しかし、いつまでもあそこに置きっぱなしという訳にはいかんだろう」
「分かった、片付ける。でも、今度ね。今は無理」
言い終わると同時にセツイは席を立つ。
それから、翁へと視線をおくり次はシノへ。
「僕はもう寝る。用があるなら治ってからにしてくれる?」
去っていくセツイの足取りは、割としっかりしている。
「お休み、テンシ」
翁の言葉にセツイは片手を軽く挙げて返事をし、階段を上っていく。
「熱はあるようだが、大丈夫じゃな。シノ、お前一緒に行かなくて良かったのか?」
「アッ!待ッテ、セツ!シノモ寝ルヨ。置イテカナイデ・・・」
バサバサと翼を羽ばたかせ、シノはセツイの後を追っていく。
後に残されたのは、空になったマグカップ。
それを見た翁が優しく微笑んだ。
やがて、リビングの灯りも消え静まりかえる。
こうして、夢想屋は今日も眠りにつく。

END.

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