「セツ、セツ。起キテ、起キテ。」
ソファーで寝込むセツイの上をシノがバサバサ飛び回る。
「ウワッ!!」
自由に飛んでいたシノが突如、姿を消した。
「何?」
変わりに不機嫌なセツイの声が響き、ゆっくりと上半身を起こした。
シノは彼の手の中だ。
「セツ、翁ガ呼ンデルヨ」
「何で・・・?」
ボーっとしたまま前方を見据えたままのセツイは、起きたのか寝ているのか判別しにくい状態だ。
「・・・ん、いつ帰って来たん?」
「今ダヨ」
「ふうん。ほな、着替えたら行く言ぅといてぇ」
「ハ~イ」
セツイから開放されシノは再び飛び始める。
「面倒くさいな・・・」
ポツリと呟いてセツイは頭を抱えた。
ソファーから中々離れる事ができない。
「まぁた、上がったんかなぁ・・・」
セツイが下りてきたのは、シノが呼びに行ってから30分が過ぎてからだった。
「大丈夫か?」
「そないな事言うんやったら、呼ばんといてくれる?」
「けれど、何か食べなければ、治るもんも治らないだろう?」
「・・・・甘く見られたもんやなぁ」
自分の席に着いて、呟くように話すセツイは、どう見ても大丈夫そうではない。
「ほら。食欲は?」
セツイの前に湯気が立ち上ったお粥が出される。
「ない」
「じゃあ、こっちじゃな」
続いて出てきたのは、マグカップに入ったレモネード。
「・・・・ありがとう・・・ガキだな・・・・」
どちらも、聞き取れないほど小さな声だ。けれど翁には両方聞こえているらしく、柔らかく微笑んで彼の前のお粥を下げる。
「ところで、テンシ」
「何?」
「前から気になっていたんだが、その言葉の違いはどこで切り替えてるんだ?」
「ん?オフか・・・オンか・・・?」
ポツリポツリと話すセツイの声は、力はないがいつもの不思議な力をもつ音だ。
「セツ、ジャア今ハ?」
「オフだけど、熱あるから・・・考えないで喋ってる」
「・・・・・・」
シノと翁ガ同時に黙る。
セツイの今の言葉を解釈すれば、考えないで喋るから訛りがなくなるということになる。
つまり、仕事中は考えないで喋っているということなのだろうか?
セツイはそんな固まるシノと翁を他所に一人マグカップを両手で包み込み、そのまま中身を眺める。
気のせいか、彼の視線は定まっていない。
これは、彼が熱を出した時特有の動作だ。翁やシノは、彼のこの動作で状態を見る。でなければ、彼自身は具合が悪いとかいった発言はめったにしないので、わからない。
「説明してもいい?仕事、もう終わったから」
「ああ、しかし大丈夫なのか?」
深く考えてこんでいた思考を引き上げ、セツイの声に耳を傾ける。
「うん。報告は早い方がいいだろう?多分、昔の資料出す必要あるから」
「分かった。しかし、無理は禁物じゃよ?」
「分かってる。どうせ、しばらく何もないし」
そして、彼は語り始める。
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