気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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セツイの声で、思考が止まる。
「キミ自身が忘れていたみたいだけど、どこか・・・心の奥底で覚えていたんだね」
「・・・・・・・」
「だから、それが時計に現れた。『会いに来る』という言葉を信じている反面、そんな事は絶対にないと思っているキミの心が時を進め、また早めたんだ」
感情の篭らない声。ただ、淡々と説明してゆく。
冷たい声だと瑞希は思う。しかし、聞いていてどこか気持ちの良くなる綺麗な声だ。
「大丈夫」
「え?」
「誕生日を楽しみに待っていればいいよ。僕が保障する。『ママ』には絶対に会えるよ」
にっこりと微笑み、彼は自信たっぷりにそんな事を言った。
「時計も誕生日を過ぎれば直るだろうし、ただそれまでは我慢して欲しいけどね」
そして、忘れていた当初の目的を思い出す。
「今、治らないの?」
「うん。ボクには無理だ。もちろん、他の時計屋に言っても直らないよ。あと1週間の我慢だね」
机に寄りかかっていたセツイがこの部屋唯一の扉へと向かう。
やはりそれには、ドアノブが存在しない。
「今日はもう遅いから帰った方がいい」
振り返り瑞希を見るが、動く気配がない。そのままセツイは視線をずらしシノを見た。
「セツ、オ嬢ハ思考停止状態ネ」
「そうみたいだね」
ドアへと向いていた足を、瑞希の方へと方向転換し、セツイは瑞希の前に立つ。
「大丈夫。キミの誕生日には全てが分かる。さあ」
瑞希に手を差し出し、彼女が動くのをセツイはジッと待った。
手を眺めたまま瑞希は動かない。
「手を」
「え?」
「キミは最初から最後まで、そればっかりだね」
クスっと笑いながらセツイは瑞希の手をとり、立ち上がらせる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
そのまま、セツイは瑞希をドアの前まで連れてゆく。



ドアの前で立ち止まり、セツイが瑞希の方へ向き直る。
「最後に、ボクからプレゼント」
胸ポケットに手を入れ、中から出てきたのはシノの羽だ。
桜色をしたその羽はシノの姿からは同じ色のものが見つからない。けれど、確かにそれはシノのものだ。セツイが、シノに受け取りポケットに仕舞っていたのだから間違いない。
「店の外まで送ろう。迷子になられても困るからね。シノはどうする?」
「えっ、私こんなところで迷子になるほど方向音痴じゃ・・・」
「待ッテ、待ッテ!着イテ行クヨ、連レテッテ」
瑞希の言葉に被る形でシノが慌てて、セツイを止める。
セツイがシノに視線だけで自分の肩を示し、バサバサと羽の音がして、棚の上にいたシノがセツイの肩の上に移動する。
「じゃあ、行こうか。多分、翁も待ってるから」
セツイがドアに手を触れる。
ギッと音を立てて開いた扉の向こうにはランプを持った翁が立っていた。
店内の灯りは消えている。
「上手くいったかい?」
「ん。まあまあ、なんじゃない?でも、まだ終わってはいないよ」
翁に話しかけられ、セツイは簡単に答える。
セツイは翁からランプを受け取り、そのまますたすた歩き出した。置いていかれる形となった瑞希は動けない。
何かがおかしい。
「何、ボーっと突っ立てるのさ」
今、瑞希の前に広がっているのは1階の店だった。
自分はいつの間に階段を下りたのだろうか?
「さあ、お嬢さん。外はもう暗い。急いで帰った方がいい」
翁に背中を押され瑞希は歩き出す。
カラン、カラン
セツイが重たい扉を開き瑞希を待っている。
瑞希がセツイの横に立つと、セツイがニッコリと営業スマイルを見せる。
今日見た中で、一番不自然な笑いだ。
「またのご来店、心よりお待ちしております。お気をつけてお帰りください」
不自然な笑顔に不自然な台詞、どちらも彼には似合わない。
「オ嬢、マタネ!」
「じゃあ」
最後に、彼らしい冷たい言葉で別れを告げられた。
「うん。ありがとう」
今日始めて笑った気がした。瑞希はそんな事を思いながらお礼を言う。
店の外へ1歩出ると扉はあっという間に閉じてしまった。半ば追い出されたように店を出た瑞希は改めて店を振り返る。扉はすでに閉まっておりセツイの姿はすでにない。
扉の横にある街灯だけが瑞希を見送っている。
見送りぐらいしてくれても良いじゃないかと、思いながら瑞希は歩き出す。
数歩すすんだところで再び振り返ると、店の灯りはすでに消えていた。

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