ドアの前で立ち止まり、セツイが瑞希の方へ向き直る。
「最後に、ボクからプレゼント」
胸ポケットに手を入れ、中から出てきたのはシノの羽だ。
桜色をしたその羽はシノの姿からは同じ色のものが見つからない。けれど、確かにそれはシノのものだ。セツイが、シノに受け取りポケットに仕舞っていたのだから間違いない。
「店の外まで送ろう。迷子になられても困るからね。シノはどうする?」
「えっ、私こんなところで迷子になるほど方向音痴じゃ・・・」
「待ッテ、待ッテ!着イテ行クヨ、連レテッテ」
瑞希の言葉に被る形でシノが慌てて、セツイを止める。
セツイがシノに視線だけで自分の肩を示し、バサバサと羽の音がして、棚の上にいたシノがセツイの肩の上に移動する。
「じゃあ、行こうか。多分、翁も待ってるから」
セツイがドアに手を触れる。
ギッと音を立てて開いた扉の向こうにはランプを持った翁が立っていた。
店内の灯りは消えている。
「上手くいったかい?」
「ん。まあまあ、なんじゃない?でも、まだ終わってはいないよ」
翁に話しかけられ、セツイは簡単に答える。
セツイは翁からランプを受け取り、そのまますたすた歩き出した。置いていかれる形となった瑞希は動けない。
何かがおかしい。
「何、ボーっと突っ立てるのさ」
今、瑞希の前に広がっているのは1階の店だった。
自分はいつの間に階段を下りたのだろうか?
「さあ、お嬢さん。外はもう暗い。急いで帰った方がいい」
翁に背中を押され瑞希は歩き出す。
カラン、カラン
セツイが重たい扉を開き瑞希を待っている。
瑞希がセツイの横に立つと、セツイがニッコリと営業スマイルを見せる。
今日見た中で、一番不自然な笑いだ。
「またのご来店、心よりお待ちしております。お気をつけてお帰りください」
不自然な笑顔に不自然な台詞、どちらも彼には似合わない。
「オ嬢、マタネ!」
「じゃあ」
最後に、彼らしい冷たい言葉で別れを告げられた。
「うん。ありがとう」
今日始めて笑った気がした。瑞希はそんな事を思いながらお礼を言う。
店の外へ1歩出ると扉はあっという間に閉じてしまった。半ば追い出されたように店を出た瑞希は改めて店を振り返る。扉はすでに閉まっておりセツイの姿はすでにない。
扉の横にある街灯だけが瑞希を見送っている。
見送りぐらいしてくれても良いじゃないかと、思いながら瑞希は歩き出す。
数歩すすんだところで再び振り返ると、店の灯りはすでに消えていた。
PR