ゆっくりと、落ちていく。何がどこに落ちていくのかは分からない。
けれど、落ちていくという感覚だけが確かにあった。
やがて、少女のすすり泣く声が聞こえてくる。それに重なるように母親の優しい声がした。
「大丈夫よ。また会えるから」
母の声を聞いた少女がフルフルと首を降る。
「大丈夫だから。みーちゃん、ママの顔を見て?」
俯いていた少女が顔を上げた。その顔を涙と鼻水でグシャグシャになっている。
子ども独特の思いっきり泣いた後の顔。
その涙がまだ後を引きずっているらしく、少女はしゃくり上げながらも母親の顔を見上げた。
「ね?みーちゃん。指きりしましょう?」
「ック、ゆび、きり?」
少女が涙を止め、母親の言葉を繰り返す。
「そうよ?みーちゃんとママの2人だけの約束」
「2人だけ?」
「そう」
「パパにはナイショ?」
「ええ、内緒にしましょう」
「うん!」
泣いていた筈の少女は笑顔で母親に抱きついた。
「さあ、みーちゃん。指を出して」
しかし、指を出したところで動きを止める。
不思議そうに首をかしげ母親の顔を見つめた。
「ねぇ、ママ。何をやくそくするの?」
「みーちゃんとママが、また会えるって」
「ほんとう?」
「ママが嘘ついた事ある?」
「ううん!」
「約束するわ、みーちゃん。みーちゃんが16歳になったらママ会いに来るから。それまでちゃんと良い子にしてるのよ?」
「うん」
「パパの言うことちゃんと聞いて、好き嫌いしちゃだめよ?ママはちゃんとみーちゃんのこと見てるから」
「うん。みーちゃん好き嫌いないよ!」
「うん。みーちゃんは良い子だもんね・・・」
言葉は途中で途切れ、母親は少女から目を逸らす。
「ママ!泣いちゃダメ!」
「うん。そうね」
「ハイ!ママ!ゆーびきりげんまん・・・」
少女の元気な声が遠のいて行き、やがて聞こえなくなる。
パチン!!
と耳元で大きな音がしたかと思うと、今度は不思議な声が聞こえた。
「さあ、目を開けて。ちゃんと見えただろう?」
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