「キミ、16歳の誕生日がもうすぐなんじゃない?」
「え?そうだけど、何で知ってるの?」
天を仰いでいたセツイが瑞希へと視線を移し、そう尋ねてくる。
「いつ?」
「えっと、ちょうど1週間後かな」
一人納得したように頷きながら、彼は机に戻り寄りかかる。
「んじゃ、それだね」
「何が?」
まるで説明のないセツイの言葉に瑞希はついていけない。
彼はいったい何を理解し、納得しているのだろうか?
「時計の故障の原因」
「どうして?」
「まだ、思い出さない?」
正面からジッと見られ、セツイの不思議な雰囲気を嫌でも感じとる。先ほど彼に受け取った石はいつのまにか手の中から消えていた。それどころか、セツイがいつ手を離したのかも分からない。
セツイと目が合う事で思考が停止してしまう。
「思い出す?」
「『ママ』との大切な約束」
セツイが発した「ママ」という言葉は随分と機械的な感じがして、違和感を覚える。
「約束?」
先ほど見たのは少女と母親の約束を結ぶ場面。
みーちゃんと呼ばれていた少女。
『泣かないで、みーちゃんは強い子でしょ?ほら、もう大丈夫』
『痛くない、痛くないよ。みーちゃん、ママの顔を見て。ね?』
優しい声で、ちょっとの事でも泣いていた私をあやしていたのは・・・。
「ママ・・・?」
でも、何かがおかしくないだろうか?
母親は今も家で瑞希の帰りを待っている。彼女は私のことを1度も「みーちゃん」と呼んだ事はない。
そもそも、お母さんはお母さんで・・・瑞希自身も彼女を「ママ」と呼んだ事はない。
幼いころから「瑞希ちゃん」と呼ばれ「お母さん」と呼んで来た。
しかし、自分の記憶がおかしい事に気づく、彼女が瑞希の記憶の中に出てきたのは6歳の頃からだ。
それ以前の記憶の母親には、何故か顔がない。
「キミの願いは、『ママ』に会う事」
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