病気が悪化すると彼女は病院から離れられなくなってしまった。
3歳になったばかりの瑞希は、家にママがいない事が怖く悲しかった。
毎夜のように泣いて叫んでママを探す。
狭い家だ、探す場所なんて数箇所しかない。
幼い子どもでもすぐに探し終えてしまう。
けれども、少女は何度も何度も同じ場所を探す。
開けたり閉めたりを繰り返して、それでも見つからないと、やがて少女は泣き出した。
父親の側へ行き、「ママがいない、どこへ行ってしまったの?かくれんぼはもう終わりにしよう?パパからママに頼んで、もう出て来てって」けれど、父親にはどうする事もできない。
彼女は今病院にいる。
しかし、どうしてもそれが説明できない。
だから、少女と父親の気持ちはすれ違い、良くない空気が生まれ、それが、少女を余計に悲しませた。
父親が、もうどうにも手がつけられないと、ママに相談をした。
彼女は自分の体の弱さへ腹を立て、自分の行動を後悔した。
娘と最初から離れていれば良かったのだ。
こんな短い間しか一緒にいられないのなら、あの愛しい幼子にこんな寂しい、怖い思いをさせるのなら、最初から会わなければ良かったのだ。
最初から、自分の存在を教えなければ良かったのだ。
医師に病の宣告受け、難しい病気だと教えられたあの日に、全てを捨ててしまえば良かったのだ。
なのに、無駄な足掻きをして、無意味にあの子を悲しませてしまっている。
いっその事忘れて欲しい。
自分の事であの子が泣くくらいなら、自分の存在をあの子から消してしまえばいい。
もう近いのだ。あとわずかしか残されていない。
それまでに、あの娘にどうにかして説明しなければいけない。このままでは、余計にあの子を悲しませてしまう。
彼女の病気は移植手術をしなければ治らない。けれど、それには順番がある。彼女と同じ病気で、ドナーが現れるのを待っている人間が何人もいるのだ。彼女の前にはまだ、何十人にといる。
しかし、彼女の病気は進行が早く、持って半年だと医者に言われたばかりだった。
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