気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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だから、愛しい娘に言い聞かせる事にした。

彼女は医師に頼み込み、1日だけ外出許可をもらい、最後の娘との一日を過ごす。

「みーちゃん、ママはねこれから遠いところに行かなければいけないの」
「とおいところ?」
小さな愛しい娘と手を繋ぎながら歩く。
市民病院近くの遊歩道。平日の昼下がり、天気はうす曇で気分まで自然と暗くなりそうだった。けれど、小さな我が子は嬉しそうに歩いている。
しばらく歩いて、ゆっくりと言葉を紡いで、今日伝えなければいけない事を切り出した。
「ええ。とてもとても、遠いところ」
「みーちゃんも、いっしょに行ける?」
少女は不思議そうな顔をしながらも、期待いっぱいの言葉を口にする。
「ごめんね。みーちゃんはお留守番なの。パパと一緒にお家で待ってて」
ね?と娘の顔を覗いて言い聞かせる。
「どうして?どうして、みーちゃんは行っちゃいけないの?」
何かを感じ取ったのか、子どもが泣き始める。
「大丈夫、大丈夫よ。怖くないから泣かないで、瑞希」
この子が泣くのは、怖いときだけど彼女は知っていた。
転んで痛い思いをしても泣かない強い子だった。グズる事はあっても、泣く事はほとんどない。
そんな子が、今までに聞いたこともないくらい大きな声で泣いている。
こんなに可愛い子を泣かしているのは、他でもない自分だ。
なぜ、こんな事になってしまったのだろう?
誰に文句を言えばいい?この痛い胸の思いを誰にぶつければいい?
医者には何の責任もない。
旦那だって精一杯やってくれている。
どこで間違えたのだろう?
病気が発覚したときに、両親が子どもを預かると言ってくれた。その言葉通りにしていれば良かったのだろうか?
泣きじゃくる赤子をおいて、治療に専念していれば良かったのだろうか?
神がこの世にいるというのならば、願いを叶えてくれるだろうか?
この子をどうか幸せにしてくださいと、こんな胸の痛みを取り去って、母の存在を消して、この子が悲しむ事がないようにと願えば、それは叶うだろうか?
この際、神でなくとも構わない。悪魔でも何でも、今この子から苦しみを取り除いてくれるのなら・・・・。
愛娘を抱きしめ、心の底から願う。
何だっていい、誰だっていい。
ダレか、願いを叶えてくれるのならば、先の短いこの命、今すぐこの場で捧げよう。

「そないな、怖い顔して娘抱きしめて、人の店の前で親子心中なんてせんといてなぁ」



娘を抱きしめてどれくらい経っただろうか?
突然聞こえた声に、彼女は現実へと引き戻される。
鈴の音のような澄んだ綺麗な声だけれど、その紡がれた言葉はおかしな訛りがあった。
顔を上げ、声のした方に視線を向けると、不思議な少年がレンガ造りの建物を背に立っていた。
手には如雨露を持っている。それが少年の姿と不釣合いでおかしい。
「暇なら寄って行かへん?」
「え?」
「今ならサービスで、紅茶とお菓子付きや」
「サー・・・ビス?」
「おかし?」
泣いていた娘がピタリと泣き止み、「お菓子」と言う単語に興味を示す。
娘が少年の顔を見上げると、彼はニコリと微笑み軽く頷いた。
「みーちゃん、お菓子食べたい!」
少女が母親に抱きついて、お願いと視線を送る。
「こんにちわ。小さなお姫さま?お菓子は何が好き?」
少年が屈んで、少女と視線を合わせ問いかける。
「みーちゃんね、ケーキが食べたい!」
「じゃあ、イチゴのケーキをだそうか。さあ、どうぞ。僕で良ければお話しを聞きますよ?」
愛娘はすっかりお菓子に夢中だ。この分だと、食べなければ離れないだろう。
「ここは、何の店かしら?」
「ん」
と言いながら、少年は上を指差す。
「夢想屋?・・・あなたが探しているものきっと見つかります?」
看板を読み上げるが、何の店かはさっぱりわからない。
「何の店?」
「雑貨屋」
少年はごく簡単に答えを返す。
「雑貨屋でケーキが出るの?」
「出しちゃダメだって誰が決めたの?」
「え・・・?」
「さあ、どうぞ」
重たそうな木の扉を開き、彼はニッコリと微笑む。
ドアに着いたカウベルが心地いい音を響かせた。
彼女の前に現れたのは、神様でもなく悪魔でもなく、不思議な喋り方をする天使だった。


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