母親が普通だということは、彼女も普通にしているとい事だろう。
コンコンコン。
扉をノックし、次いで呼びかける。
「おい、いるんだろ?入るぞ?」
しかし、返事はない。
「おい、開けるからな」
ゆっくりと扉を押し開けた。
「沙波?」
扉の向こうには、何も存在しない。
「さなみ?」
意味もなくもう一度呼びかける。
当たり前のように部屋は静まり返り、当然だが返事はない。
ここで初めて、嫌な予感というものに包まれる。
『まずは、謝ります。最後の最後で、心くんに迷惑をかけてごめんなさい。けど、友達には言えないなと思ったのです。』
幼い頃の彼女の姿を思い出す。
お転婆で、何をするのも一番のりで、いつも母親に怒られていた。
そして、そんな彼女の後姿をいつも追いかけていた。
『私は、いつもの場所を最後の場所に選びます。どうか、心くんが覚えてくれていますように。私の一番のお気に入りの場所を・・・。』
俺は急いで記憶を手繰る。
「どこだよ、それは」
幼い頃の記憶なんて曖昧で、まともな記憶が出てこない。いつも遊んでいたのは近所の公園だ。けれど、彼女がいういつもの場所はもっと違うところだろう。
こんなところに立ち尽くしていたって仕方がない。
俺は、慌てて部屋を出る。
「お邪魔しました」
リビングにいるであろう、彼女の母親に声をかけ外に出た。
『だって、さすがに見つけてもらえないのは寂しいもの。誰にも邪魔はされたくないけど、やっぱり最後は見つけてほしいから。』
「だから、冗談じゃないっての」
手紙を読みながら、近所の公園へ向かう。そこに、彼女がいない事は分かっていた。
けれど、行かなければ気がすまない。
『そういえば、これは最初で最後の手紙だね。そう思うと何だか緊張してきました。今思えば、いっつも心くんには迷惑をかけてたね。私のせいで心くんまで怒られて・・・折角だから、その事も謝っておきます。ごめんさない。』
「どうでもいい事ばっか書きやがって」
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