相手が望むのならば、実行する以外の選択肢はありえない。
それが、仕事なのだ。
基本的に不可能な事はない。出来るか出来ないかは、相手の「思い」によって決まる。
今回の対象者は幼い少女と、その母親。
内容は記憶の抹消と夢への介入。
普通ならこの内容は簡単だ。使い魔の羽と石があれば、今すぐにだってできる。
しかし今回の問題は夢への介入。
「もう一つだけ、出来たら私のわがままを一つ聞いて欲しいの」
「内容によります。僕に出来る事ならいくらでも」
「もう一度会いたい」
その言葉に、彼は不思議そうな顔をする。
「すぐにじゃなくて、この子が幸せに生きてるかどうか、確認するために。十年後・・・そうだ、この子16の誕生日がいい。もう一度だけ会いたい」
どうして、そんな事を思いついたのかは分からない。ただ、これが最後なのは悲しすぎる。
「ものすごい、ワガママだね」
彼は意外にもモノをハッキリ言う。
意外という言葉は違うかもしれない。見た目にも冷たさを感じるし、喋る内容にも同じように冷たい感じがする。最初の訛りのある言葉よりも、今の方が彼らしい。
だから、ここで意外という言葉を使うのは間違っている。
彼の返事は、ある程度想像できていた。願いを叶えてくれると言ってはいたが、それは娘に関すること。
「無理なら、いいの・・・」
「できますよ」
「えぇ?!」
再び彼の予想外の返事に驚きを隠せない。
確認するために、彼の顔を見据える。
すると、彼の表情は今日一番の変化を見せた。声に驚いたのか、ビックリした表情をしていたが、それをすぐに隠し、しかめっ面をする。
しかし、それもすぐに引っ込んでしまう。
「ただし、貴女の娘さんがそれを覚えていたらに限ります」
目が合ったことを確認してから、彼はそんな事を言った。
「みずきが?」
「ええ」
「記憶を消すのに、覚えていることなんてあるの?」
「ええ。場合によっては。それくらい、貴女の言っていることを成功させるのは難しいんです」
「どうして?」
「貴女、ご自分の体の事忘れてません?生きてないでしょう?」
やはり、彼はハッキリとものを言う。
「だから、僕にできる事はまじないをかけるだけ。成功するかどうか、貴女と娘さんに掛かっています」
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