セツイは、一度瑞希と視線を合わせてから、感情のこもらない笑顔を見せる。
「いい?開けていいと言うまで、絶対に目を開けてはいけないよ?」
「はい」
「絶対にだよ」
最後に念を押し、セツイ自身が一度瞳を閉じる。
数秒後、セツイはゆっくりと目を開ける。
無感動の黒の瞳は何も映していないようだった。
何の言葉もなく彼は、左手を上げてカウントをとり始める。
「1、2、3」
はい。
最後の言葉は声には出ていない。
瑞希は言われたとおりに瞳を閉じる。
「じゃあ、そのまま聞いて」
コクリ、と動作だけで返事をする。
「ここへ来た理由は、時計を直すため。そうだよね?」
もう一度、コクリと大きく頷く。
先ほどまでと同じ声を聞いているというのに、眼を閉じたというだけでそれは大分変わってくる。
まるで、子守唄か何かを聞いているようだ。
澄んだ音で、心地いい音楽を奏でる。
「じゃあ、時計が壊れた理由に心当たりは?」
これには、瑞希が首を振って否定の意を表す。
「うん。けれどね、時計が狂った理由はキミにある。分かる?」
これにもやはり、瑞希は首を振って答える。
「分からなくて当然だよ。キミはどうやら無意識に思っているらしいから」
話しが、だんだんと分からない方へと向かっている。
今の瑞希には発言の権利が無いらしく、テンポ良くセツイだけが言葉を紡いでゆく。
「さて、ここで最初の質問。今、キミには何が見えてる?」
「何も・・・」
見えるはずがない。
瑞希は目を閉じた状態だ。何かが見える方がおかしい。
「そう?見えるはずだよ?もっとしっかり見てごらん」
しかし、セツイは当然のように見えるはずだと言ってくる。
瑞希に感じるのは暗闇だけであとはわからない。
わからないと言えば、目の前にいるはずなのにセツイの存在をまったく感じないのも不思議だ。
声も聞こえるし、手だって握っている。
しかし、すぐ目の前には感じない。どこか、もっと遠くにいるように思えるのだ。
「どう?」
もう一度、セツイが聞いてくる。
瑞希は軽く首を振って答える。
「難しいな・・・」
本当に小さな声でセツイがそう言ったのが聞こえてきた。
「引っ張りださなきゃダメか・・・厄介だな・・・」
もしかしたら、本人は音にするつもりの無く無意識に喋っているのかもしれない。
なんとなく瑞希はそう思った。
「見えないのら、見えるようにしよう」
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