「さてと」
机に突っ伏していたセツイが起き上がり、椅子ごと瑞希の方へと体を向けた。
「早く、終わらせよう。もう疲れた」
「疲レタッテ、セツ。マダ、何モシテナイヨ」
「してたんだよ。翁に呼ばれるまでずっと、オルゴール作ってた」
「ナルホド。ダカラ、セツ眼鏡着ケッ放シダッタノネ」
「外すの忘れて、無意識に仕舞ってたんだ。もういい、それは忘れろ」
セツイは一方的にシノとの話を終わらせ、シノから瑞希へと視線を移す。
「ところでさ、過去と未来・・・どっちへ行きたい?」
「は?」
「・・・・・」
また、反応の仕方がまずかったらしい。
セツイがものすごく眉間に皺を寄せている。
しかし、真顔で過去と未来にどっちに行きたいかなどと急に気かれても、反応のしようがない。
冗談にしたって急すぎるし、理由がわからない。
「セツ、言葉ガ足ラナイヨ。ソレジャ、分ワカラナイ当然ネ」
シノの言葉にセツイは一度盛大にため息をつく。
それから、座ってる椅子に器用に胡坐をかいた。
「言ったろう、ここは夢想を売る店だ。あんたは1度だけ願いが叶えられる。その願いには条件があって、2択しか存在しない。」
説明しないにもほどがある。
何故、彼らはこんな大事な事を説明しなかったのだ?
しかし、願いが叶えられると言われて、「はい。そうですか」と信じられるわけがない。
だいたい、過去と未来という2択は誰が決めたのだ?
「信じる信じないはあんたの勝手だ。ただ、事実としてはあんたが過去、もしくは未来。どちらかに行けるという事だけだ。ほかには、説明のしようがない」
「なんで、2択なの?」
頭の混乱を落ち着かせるためにも、疑問に思った事を尋ねてみる。信じる信じないはこの際置いておこう。
「何でって、能力の限界だからだ」
しかし、答えを聞いても納得できない答えしか返ってこない。
「でも、その2択は誰が?」
「主に僕が・・・でも基本的には、キミの『思い』から決められる」
「思い?」
「そう」
「私の?」
「うん」
セツイは簡単に話を展開してゆくが、事はそんな軽いものではない。
「だから、どっちにするかは選んでもらわなければ、僕が困る」
「困るって言われても、私が困る」
「どうして」
どうも、セツイと会話をしていると上手くいかない。
こっちが、誠心誠意、全力で投げた球を彼は軽く受け取りそして、軽く返す。
瑞希だけが、疲れて汗だくでいるのに彼は涼しい顔で立っているだけだ。
ついでに言えば、瑞希はキャッチャーの全装備をしていて、彼はグローブすらつけていない。
それくらい、瑞希たちの会話にには温度差があるのだ。
「どうしてって言われても・・・困るものは困るの!」
分からないものは分からない。だから、無理なものは無理なのだ。
「ただの2択だろう?」
「だから、その選択肢に問題があるんだってば、イマイチ意味が分からないし・・・」
こんな、謎だらけの2択を直感だけで決めてしまえるほど瑞希の性格は安直ではない。
「それはさっき説明しただろう?」
「あれだけで理解しろって言う方が無理!」
「じゃあ、どうしろと?」
まったく分からないと言う様にセツイはあきれ返る。
「だ・か・ら!全部分かるように、綺麗さっぱり、すっきり説明して!
・・・やっと、言えた・・・。
セツイに聞こえない声で最後にそう呟く。
瑞希が一番言いたかった事が、これなのだ。
オブラートに包んだような説明はもう、ゴメンだ。
そうゆう変な気遣いは、もっと違うところでしてほしいものだ。
そして、恐る恐るセツイの反応をうかがう。
「最初から思ってたんだけどさ」
と彼は、そこで一呼吸空ける。
少し強気に発言しすぎたのだろうか?
「キミって、日本語おかしいよね」
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