お盆を片手に戻ってきたセツイはまるで、どこかのカフェのウェ-ターの様だった。
それだけ、その姿が様になっているのだ。
カップが2つとポットが載ったお盆を、机に降ろす。
「シノ。仕事だ」
どこか、空間へ向かって呼びかける。
彼が何をしたいのかが瑞希には、まったく理解できない。
すると、バサッバサッと妙な音がする。
それは、すぐに姿をあらわした。
「鳥?」
「セツ。仕事?珍シイネ?3年ブリ?」
「シノ。おしい、3年じゃなくて、3ヶ月だよ」
どっちにしても、まったく客が来てない事が分かった。
「瑞希」
「はい!」
急に呼ばれ、思わず真面目に返事をする。
声が大きすぎたらしく、セツイが顔をしかめる。
「これは、シノ。これから全部説明してくれる」
「鳥が?」
「そう、鳥が」
「オ嬢チャン、失礼ダネ。鳥ジャナイヨ、違ウネ」
「どう見ても鳥だろう、シノ」
「ソモソモ、シノ、ジャナイネ、シーヤンヌ・ワーシャルノ。セツ、短縮シスギ」
「そんな長い名前、いちいち呼んでられるか」
「ジャア、セメテ、シーヤンヌ、ト呼ンデヨ」
「そんな、今更」
「セツ、名前ッテ大事。世ノ中デ一番短イ呪イッテ言ウンダ」
「呪いじゃなくて、シュ。確かに呪いっていう字だけど」
「ソウ、ソレ。サスガ良ク分カッテル。セツ」
「じゃあ、シノ、僕の事をフル-ネームで呼んでくれるのか?」
「嫌ダネ、アンナ長イノ。セツヲ、テンシ、ナンテ呼ビタクナイネ」
「テンシ、じゃなくて、あまつか。」
「モウ、ドウデモイイヨ。セツニハ頼マナイ」
「そうしてくれ」
セツイとその肩に乗った鳥が、テンポのいい会話を繰り広げる。
瑞希には入る隙がない。
「オ嬢ハ、呼ンデクレルヨネ?」
「え?私?シー・・・なんだっけ?もっかい言って。」
急に降られても、咄嗟に返事をするのは難しい。
ちょっと前の会話を思い出しながら、鳥のフルネームを記憶からひっぱり出すが上手くいかない。
「モウ、イイネ。諦メルヨ」
「最初からそうしてくれ」
「えっと、ごめんね。じゃあ、何て呼べばいい?」
ふてくされてしまった鳥は、そっぽを向いてしまう。
セツイはまったく気にしていないが、最後に追い討ちを掛けたのは瑞希なので、放っておく訳にもいかない。
「いいよ。シノで」
何故かセツイがそう答えて、鳥を肩から手へと移す。
「シノ。ほら仕事」
「ショウガナイネ。セツノタメニ、ガンバルヨ」
「えっと、よろしくお願いします」
頑張ると宣言した鳥に向かって瑞希は頭を下げる。
「イイネ。オ嬢、礼儀ハ大切ネ。エット、ドコカラ説明スル?」
「全部」
「セツ?今マデ何シテタノ?」