「じゃあ、夢想と言う言葉の意味は分かる?」
瑞希はセツイのペースについて行く事ができない。
どうゆう流れで、その質問になるのかがわからないのだ。
瑞希が答えないでいると、セツイは再び席を離れる。
正直、その前後をまったく無視した動作も止めて欲しいと瑞希は思った。
黙って待っていると、すぐにセツイは戻って来る。
手には何か分厚い本を持っているようだ。
「え~っと、夢に見る事。あてもないことを心に思う事。空想。バーイ、広辞苑」
ふざけた調子で辞書を読み上げたセツイは、満足そうに微笑んで本を閉じる。
「どう?心あたりない?」
「それは・・・」
「僕の言ってる意味が理解できない?」
少し、言い方が気になるが今の瑞希にはそれを否定する事ができない。
彼が、何を言いたいのかがさっぱり分からないのだ。
セツイはランプの炎の向こうで、満足そうにしている。
「じゃあ、質問する事を許そう。何か僕に聞きたい事は?」
それは、たくさんある。
しかし、何を聞いたらいいのかわからない。
「それもダメ?」
黙っている瑞希に、がっかりしたようにセツイが肩を落とす。
「仕方ない。全部説明するよ。1度しか言わないから、聞き落とさずにしっかり聞いてね。久々の客だからって、遊びすぎたかな?」
「へ?」
「普通は、最初にある程度説明するんだよね。でも、今回はそれをナシで初めてみたんだけど、さっぱり話が進まないだもの」
「さっぱり進まないだものじゃないよ!ちょっと、あんた何考えてんの?」
「別に、何も」
「何も、じゃないって!人おちょくって楽しい?」
「いや、別に」
「・・・・・」
怒りのあまり声が出てこない。
肺の奥から息を吐き出しワンテンポ開ける。
「何なの!あんた!ホント最悪!」
瑞希は立ち上がると同時に、ほんとんど叫ぶように喋る。
もうこんな場所にはいる意味はないと、判断し出口に向かう。
「帰っちゃうの?時計を直しに来たんじゃなかったの?」
「結構です!帰ります。お邪魔しました!」
怒りに任せて返事をして、感情のこもってない挨拶をする。
ドアの前まで来て、違和感を覚える。
「あれ?」
このドア、おかしい。