「そういえば、玲?」
「ん?」
「噂、他には聞いてないの?」
「何が?」
「夢想屋」
「あ~」
「何?噂って?」
下校するのも3人はいつも一緒だ。
教室で、道が空くのを待ってから学校を出、駅に向かい電車に乗り込む。
帰宅ラッシュになる前の中途半端な時間の電車は空いている。
ドア付近に3人で立って、迷惑にならない程度の音量で雑談をする。
「ん~、そういえば、天使がいるって」
「へ?」
「テンシ?」
瑞希がおかしな声を上げ、由月が言葉を繰り返す。
「なにそれ?」
「天使って、あの天使?頭にわっかがあって、背中に羽の生えた?」
「ん~、聞いただけだから、何とも・・・」
「それが、不思議な子なのかな?」
「さぁ~?」
「ん~、謎ばかりの店なのね、私も行きたくなっちゃった」
「んじゃ、一緒に行こう!」
電車が駅に入りスピードを落とす。
瑞希が最後の足掻きだと言わんばかりに、由月を誘う。
「無理、バイトは休めません。ただでさえ、今大変なんだから」
「しょうがないか、じゃあ、明日ね。バイバイ!」
すんなりと交わされてしまい、仕方なく電車から降りる。
「バイバイ!」
「また明日ね~!」
ドアが閉まるまで手を振りつづけ、電車が見えなくなるまで見送ると、人がまったくいなくなったホームを進む。
「また、あの坂上るのかぁ」
思わず出てしまった独り言に、慌てて周りを見回すがそれを聞きとがめる人間はいなかった。
1人で黙々と上ったからか、前回よりは時間が短縮できたが疲れは酷かった。
目の前には、1週間前と同じように、悠然とレンガの建物が存在する。
カラン、カラン
重たいドアをひっぱり開けると、ドアについたカウベルが来客を告げる。
「いらっしゃい」
入った途端に横から声がかかる。
「え?あっ、どうも、いらっしゃいました」
思ってもいなかった声がかかり、どう考えてもおかしい返事をしてしまう。
「今日はどうしたんだい?」
瑞希のおかしな返答にも、表情1つ変えずに尋ねてくる。
1週間前とは違い店内は明るい。
きちんと、営業しているらしい。
「あっ、あの。こないだ買った時計が調子悪いみたいで・・・」
「修理かい?」
「は、はい」
瞬間、悩む仕草を見せるが、すぐに気付いたようで店の奥、階段がある方へと向かう。
そして、階段の横の壁を何度か叩く。
コンコンコン。コンコンコン。
数度叩くが反応がない。
「さては、寝ておるな」
「え?」
「ちょっと、待っておいてもらってよいかな?」
「はい」
瑞希が上を見上げて待っていると、小さな声だが上から声が降ってくる。
「テンシ、テンシ。仕事じゃよ。」
少し間があり、再び声が降ってくる。
「修理だそうだ、お客さんがお待ちだ。」
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