「いつまで座ってるんだ?」
「え?」
「ソウヨ、オ嬢ガ来ナキャ意味ナイネ」
「私?」
2人だけで、どこかへ行くのかと思っていたら違うらしい。
ボンヤリと座っていると、二人に怒られた。
怒られたというのは少し違う。
口調こそ、怒ってはいないが視線は明らかに彼らの機嫌を表しているのだ。その視線が、少しばかり怖い。
シノはまだいい。鳥だし、怖くはない。
しかし、セツイは怖いものがある。視線もそうだが、なんとなく雰囲気が怖いのだ。関西弁を喋ってるときのセツイはまだ良かった。
話の内容次第でコロコロと表情が変わって、密に可愛いなと思ってしまったくらいだ。
それが、先ほどからまったく違った。表情は全然変わらないし、態度も冷たい。何より、何でこんなにも口調が違うのだろうか?関西弁の時は、楽しそうに喋っていたのに今は、一言二言すらもめんどくさいといった感じの話し方なのだ。こうゆうのを二重人格と言うのかもしれない。
そして、今はそんな事を考えている場合ではない。シノの言い方からすると、メインは瑞希のようだ。
「行くよ」
とセツイに促されるが、瑞希には何が何だかさっぱり分からない。
「ちょっと、待って。行くってどこに行くの?」
「シノ、説明は?」
「マダダヨ。ソンナ早ク、話セナイヨ」
「・・・じゃあ、行きながら話す。とりあえず付いてきて」
「うん。分かった」
瑞希は座っていたソファーから離れると、1人と1羽の元へと向かう。
ドアノブの存在しないドアの向こうには、いったい何があるのか瑞希には想像もつかない。
「あ、そうだ。時計、持ってくの忘れないでね」
「え?時計?あれ?」
言われて思い出すが、瑞希の手元には時計はない。
先ほど、セツイに受け取らなかっただろうか?
しばらく考えるが、自分が時計をどこにやったのか思い出せない。
胸ポケットにブレーザーのポケット、スカートのポケットなど、パンパンと体中を叩いて確認するがそれらしきものはみつからない。
最後に、自分の左手首を右手で握ってみる、当たり前だがそこにも時計はない。
「あれ?私、時計どうしたっけ?」
「何?オ嬢、失クシ物?イッタイ、ドコヘヤッタノサ?」
セツイの肩に乗って、バサバサと翼を広げながらシノが瑞希の言葉に答えてくれる。
瑞希としては、答えが返ってきてくれただけで嬉しかった。しかし、もう一人の反応は案の定冷たい。
「シノ。人の肩の上で羽ばたくな。邪魔くさい」
うっとおしげに顔をしかめて、シノに文句を言うセツイはまるで瑞希の事を気にしていない。
「ゴメンネ。癖ダヨ、癖。ソレヨリ、セツ。オ嬢ノ時計知ラナイノ?」
アタフタとしている瑞希を見ながら、シノがセツイに問いかける。
「何で、僕に聞くんだ。さっき渡しただろう?」
「ソウナノ?」
セツイの言葉を聞き、今度は瑞希に問いかけるシノ。
「はい。そうなんです・・・」
申しわけなくて、答えるのも嫌だった。
「ごめんさない。どこやったか忘れちゃって・・・。」
うつむいて謝ってみるが、効果は得られないらしい。反応が返ってこない。
そのまま、しばらく床と睨めっこする瑞希。
「あのさ・・・」
そこへ、面倒くさそうなセツイの声が聞こえてくる。
話しかけられても、顔を上げないでいる瑞希にセツイが盛大に溜息をこぼす。
「そこにあるのは、なんなわけ?」
呆れながらもセツイはそんな事を言う?
「え?」
訳が分からず顔を上げると、セツイは先ほどまで瑞希が座っていた場所を指差している。
「あ」
「オ嬢、シッカリシテヨ。ソレジャア、セツト変ワラナイボケップリネ」
「誰の話をしてるんだ?シノ?」
「エ?ソレハ、モチロン―」
胸を張って答えようとしたシノがセツイによって叩き落とされる。
「ワッ、セツ!何スルノ!?危ナイヨ!」
バサバサと翼を羽ばたいて、落ちる事を免れたシノは再びセツイの肩へと戻っていった。
そして、その態度から察するにセツイがボケた行動をすることがあるのは事実らしい。
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