「ああ!話題が変わってるぞ、レイン。写真だ写真!」
ガバっと顔を上げるとそんな事を言い出す。一瞬何の事だが分からなかったが、ちょっと、前の会話を思い出した。
「ああ、写真ね。それは、良く考えれば分かると思う」
「考えるのがメンドイ」
別に深い意味があって言った訳ではなかったが、レイブンは不貞腐れたように、降参のポーズをとる。
「禁じられてるんだ」
「はぁ?」
「だから、普通に考えて問題のあるやつの話題は極力避けるだろう?写真は、国王陛下直々に禁止命令が出てる。存在自体が王家の恥なのに、これ以上恥さらす訳にはいかないだろうからね。文章まではさすがに抑えられないらしいけど。…どっちが恥じなんだか。城に出入りする記者は何人もいたけど、僕のとこへ来たやつは一人もいないよ」
「ふ~ん。でも、良かったじゃない?」
「何が?」
興味なさそうに相槌を打ってから、何のつながりも無い言葉を持ってくる。
「記者が来なくて。お前、そうゆうの大嫌いだろう?」
「まあね」
わざわざ、嫌いの上に「大」までつけたレイブンに、苦笑交じりで肯定の返事を返しておく。
「やっぱり?」
ニヤニヤと笑うレイブンは少し不気味だ。
「お前、怖いぞ。何だって言うんだ」
「いんや、別に。そういやさ、いつから主都を抜けようと思ってたんだ?」
なんでも無い事の様に突然の話題変換。やはり、彼の話術のにはさっぱりついていけない。
いったい、彼の頭の中はいったいどうなっているのだろうか?
しかし、無視する訳にはいかないので、なんとなく語り始める。
「十歳になったころ。初めて城を抜け出した時だ。僕はその時初めて外の世界を見たんだ。今までは、自分の部屋しか世界が無かったから。地図では全然狭く見えてた首都が凄く広く見えた。今、考えれば当たり前な話しだな」
「ああ、それはオレも分かる」
嬉しそうに相槌を打つ、レイブンの顔をチラリと伺うが、嬉しそうなのは声だけで表情には何も表れてはいなかった。
「二回、三回と繰り返すうちに、ついに頭にきたらしくて、国王陛下は立警にあるものを配った。それは、僕の写真と身体的特徴を書いた資料だった。それまでは、殆どの人間に知られてなかったから、上手くいってたけど。顔を知られたからそうもいかなくなった。それでも、懲りずに何度も城を抜け出した。方法を増やすために色々習ったりもしたんだけど。その度に立警の連中が髪の長い男の子って言う条件で僕を探すんだ。目立つ特徴だからな」
喋り終わり、再びレイブンへと視線を向ける。
「へえ~。なるほどねぇ。なんか、全然頭が追いつかないんですけど?レイン君」
そこにいたのは、妙な表情をしたレイブンだった。まるで、百面相だな。コロコロと表情が変わっている。
「別に理解してもらわなくて大丈夫だ。僕が喋りたくて、喋ってるだけだから」
「でさ、肝心の首都の脱出方法は?」
話にあきたらしくレイブンは質問する事で、内容を特定させてくる。
「何だと思う?」
「また、聞くのか?」
「まあ、適当に答えてみろよ」
「う~ん。列車に乗る直前で髪を切ったのか?」
「残念。不正解。髪を切ったのは列車に乗ってからだよ」
「はぁ?だって、主都で列車に乗ったのは、お見舞いに行く女の子と無愛想な少年だろう・・・って事は・・・?」
「お見舞いに行く女の子というのが僕だ。誰も王家の人間が女装するとは思わないだろ?」
「確かに・・・」
「全部、今回のための事なんだ。わざと、分かるように抜け出して、すぐに発見されていたのは」
「何で?」
「何度も、そうしていれば、立警の連中も僕を甘く見るようになるだろ?どうせ、すぐに見つかる。あせって探すだけ損だから、だってほら、目印は髪の長い男の子ってな」
少し節をつけ唄うように話す。
「城をでて、まず最初に向かったのが、銀行だった。帽子をかぶって、上手く髪を隠したらあとは、簡単だった。」
一呼吸だけ休み、頭の中を軽く整理する。
「実際に盗んだのは、百万だけだけどな。それから、すぐに隣町に行く方向へ逃げたんだ。だから国警は隣町から乗ったんじゃないかと思ったんだろうな。でも、実際は時間が経つのを待つために森に入っただけなんだ。人が多くなるのを待ってから、盗んだ金で買い物した。着る物とか、旅に必要なもの全部。店を何軒かにわけてね。そのあと、用意していた女物の服に着替えて駅へ向かった。そこで、わざと駅員に印象付けるために話しをしたんだ。そして、列車に乗ってすぐにデッキから着ていた服と髪を捨てたんだ。無理に髪を切ったからボサボサだけどね」
小さく笑いながら、僕は髪をいじった。
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