「髪、それより、長かったのか?」
「ああ。腰の真中くらいまで伸ばしてた」
「え・・・?」
驚くのも無理はない。
この国では、男が髪を長くする事は禁じられている。
しかし、僕はそれに逆らって伸ばしていた。そうゆう、色々な条件が重なって、僕は国や城から忌み嫌われている。
つまり、半分は自分のせいだったりするわけだ。
「どうして、伸ばしてたんだよ?」
「最初は理由なんてなかった。ただ、なんとなくで・・・。でも、長髪=アイリスって感じに定着した時に気がついたんだ。これを利用すれば城を、主都を抜けられるんじゃないかって」
「あれ?でも、お前って写真出回ってないよな?」
「ああ、それは…クッ、クックック」
「何?レイン!?急にどうした?オレ、おかしい事言ったか?」
ある事に気がついた瞬間、笑いが止まらなくなる。
「いや、ははは、あは…クックックック…腹痛っぇ、ははは」
「あの、もしもし?」
お腹を抱えて蹲るが、意思に反して笑いは収まらない。
「レインく~ん。聞いてますか?なあ、オレおかしい事言った?なあ?ちょっと?」
「ご、ごめん。ふっ、ははは。ちょっと、ま…って、くっはは」
もう、何がおかしくて笑ってるのかも良く分からない。
「お~い!いい加減怒るぞ、レイン!戻って来~い」
「あ~、悪い。…えっと」
レイブンに手を合わせて謝って、一旦呼吸を整える。
「おお。何がどうして、どういった理由であそこまで盛大に笑えたのか、きっちり説明してみろ」
レイブンは、本当に怒っているらしく、少し語気が荒くなっている。
「悪かったって。初めてあんなに笑った。まだ、お腹痛いし」
「で?」
「いや。変わらないな、って」
「何が?」
「態度が」
「誰の?」
「レイブンの」
「オ、レのぉ?」
意外な返答だったらしく、レイブンの声は変に裏返る。
誰か違う人間の話をしていると思っていたようだ。
「どうゆう事?」
「だって、僕がどこの誰だか分かったわけだろう?」
「それが?」
簡単に返され、僕は返答に困る。
「普通は、僕が…例の第三王子だって分かったら、態度変わるだろ?というより、怒るだろう?」
「何で?」
「いや、何でって…」
変わらないものなのだろうか?
今、目の前にいる人間が国中で忌み嫌われている人間だと知って。
今まで、一緒にいて、まるで別人のように振舞っていたのに…。
「レインはレインだろう?オレが会ったのは、第三王子のアイリス王子じゃなくて、レインだ。他の誰でもないよ。まあ、確かに、騙されてたのはムカついたけど、それは気がつかなかったオレが悪い」
レイブンは、なんでもない事を言うようにサラッと言っているが、それはけして簡単な事ではないはずだ。
「そりゃあ、お前が王子だって知ったときは正直ビビったけど。まあ、言われてみれば…ってのがあるし」
そう付け足したレイブンは、ニッカと笑う。
「?何だよ?言われてみればって」
「ほら、お前って妙に偉そうだし」
「それだけ?」
「いや、後は貴族連中相手にした時とか?…つーか、別にいいだろうそんなこと。ガキが眉間にしわ寄せんな」
手を上げたかと思うと、レイブンは僕のおでこで指を弾く。それが、照れ隠しだと気づくのは、彼の表情を見てからだった。
「痛っ!ガキって言うなよ、年変わらないだろう」
おでこを抑えながら、反論するが彼はまるで取り合わない。
「一コでも、年下は年下。ガキはガキだろ」
しかし、レイブンは動きを止める。
「…あれ?新聞にはアイリス王子は十六歳って」
「に、なるだ。なる」
「なる」だけをやたら、強めて言うとレイブンは何とも言えない表情になる。
「同い年?誕生日がまだ?」
「…ちょうど、来週だな」
少し考えながら、答える。
まだ、先だと思っていたのにいつ間にそんなに経ったのだろうか?
「絶対、年下だと思ってた」
「何で、そんな気にするんだ?一コ下も同い年も大して変わらないだろ?」
「いんや!大いに変わるね、大違いだ!なんで、誕生日が近いって言わないんだよ」
「だって、聞かれてないし」
「ああぁ」と唸りながら、レイブンは盛大にため息をつく。ついでに、頭を下げて、完全に顔が見えなくなった。
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