場違いなテンションで入ってきた男の姿は、ボックス席の中にいる僕の位置からは確認できない。
「何で、立警が?」
「うわぁ!俺、立警と国警、両方いっぺんに見たの初めて」
同じように、場違いな感想を漏らしたのはオネスト。疑問の声を上げたのは、王国警察隊のアシエ。
ちなみに立警が王立警察隊の略称で国警が王国警察隊の略称だ。
長ったらしい名で呼ぶのが面倒なので、ほとんどの人間がそう呼んでいる。
エル女史は傍観者を決め込んだようで、先ほどから一切発言していない。
そして、彼等を見て何かに気が付いたらしくどこか、満足そうな顔をしている。彼女は彼女で何か企んでいるらしい。
もしかして・・・。
今の情況をみて、あることに気がついた。
今が最後のチャンスなのでは・・・?
そう気がついた途端、僕の体は動いていた。
周りは、丁度混乱していて誰も僕の事を見ていない。
先ほどと同じように窓枠に足をかけ、外に出ようとする。
今のままでは、本当にマズイのだ。
せめて、立警の連中が来る前に全てを終らしておきたかった。
「あっ!こら!待て、貴様逃げる気か!」
「くっ・・・」
やはり、事はそう上手くは進まない。列車さえ降りてしまえばこっちのものだと思ったけれど、あと少しで、というところで、国警のリーダー格の男に襟首を掴まれ、引きずり下ろされる。
ドタンっ!
「ってっぇ!」
床に落とされ、体のあちこちをぶつけ、僕はあまりの痛さに、声を上げる。
そして、引きずるようにボックス席から通路へと出され、その場で改めて床に押さえつけられえた。
「ッち」
あまりにも上手くいかないので、思わず舌打ちをしてしまった。自分のバカさに腹が立つ。
がッ!
「うっ・・・」
ってぇ。痛いという言葉を何とか飲み込む。
舌打ちが聞こえたからか、思いきり顔を殴られた。自体はどんどん悪い方へと転がっていく。
何がいけなかったのか?
「貴様、何故逃げようとした!?」
考え込もうとしていたところに、怒鳴り声が降ってくる。
しかし、こんな状態で答えられるはずがない。抵抗の意思を見せず黙りこくっていれば、それはそれで、怒鳴られる羽目になる。
「おい!何を考えているんだ!いきなり逃げやがって、お友達を助けるんじゃなかったのか?黙ってないでなんとか言ったらどうなんだ!えぇ?」
「ったく、いいか、これ以上喋るなよ!」
興奮していて、自分が何を言っているのか理解できていないのだろう。
言っている事が矛盾している。
「まあ、まあ。そんな手荒な事しちゃいけませんよ?いくら犯罪者だからって、見たところまだ子供じゃないか」
軽い調子で喋るその男は、こちらへと向かってくる。
「何をやったのか知らないけど」
小さな声で、そう付け加える。
先ほど、入ってきた男だ。
「子どもだろうが、大人だろうが、犯罪者は犯罪者だろう」
それに対して、アシエが言い切る。
「うん。ご立派な考えだね。でもさ、時には柔軟な考えも必要だよ。今の世の中」
「何を分けの分からんことを」
「で、この子何やったんです?」
彼の言葉を流し、あくまでも軽い調子で彼は尋ねる。
「例の銀行強盗だ」
「へぇ~。こんな子どもが?」
「子どもでも犯罪者は犯罪者だ」
先ほどと同じ言葉で返すアシエ。
そして、ピタリと、僕の目の前で動いていた足が止まる。
「ほら、ちょっと見せてごらん。腫れる前に手当てをしよう。おい!誰か、救急箱!」
自分の背後へ支持をだしてから、床に膝をつく。
下を向いたままの僕の顔に手をかけ上を向かせる。
男と目が合う。
・・・・・・・。
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