警察隊の連中だけでなく、レイブンやオネスト、たまたまその場に居合わせているエル女史。
皆、一様に驚いた表情で僕を見る。
「その前に、一つ確認しておきたい事があるんです。いいですか?」
「いいわ。あなたの話し聞いてみようじゃない」
答えたのはエル女史。
いいでしょ?と周りの人間に確認している。しかし、威圧的な視線を送りながらの確認なので、全員拒否できるわけが無い。
彼女は気付いているのだろうか?
「ありがとうございます」
僕は、エル女史に向かって軽く頭を下げる。
そして、分からないように深呼吸。
「聞いておきたい事は一つだけです。一つだけ確認させていただければ充分ですので。…聞きたい事というのは、中央銀行から盗まれたというお金の、金額の事です」
わざと、同じような言葉を繰り返して、ゆっくりと喋る。
相手に、きちんと聞いてもらって、こちらの話術にはまってもらうためだ。
「新聞には、一千万カスタと書いて有りましたけど。…実際は、そんなに盗まれてませんよね?」
周りの空気が凍りつく。
得に警察隊の皆さんは重症だ。
この反応だけで充分だ。
「なんだよ。それ、どうゆう意味だ?」
やはり、こうゆう時でも喋れるのはレイブンだけだ。
「貴様、何故それを・・・?」
決定打。
アシエがうめくように言葉を漏らす。
「ダメじゃないですか。簡単に機密事項もらしちゃ」
僕は笑いながらそんな事をいう。
「どういう意味か?なぜ、それを知っているかって?・・・どうしてだと思います?」
その場にいる全員に視線を巡らせる。
結構、上手くいっていると思っていたが、世の中そうはいかないらしい。
「どうしてだか分からないから、聞いてるんだろう?」
レイブンが、苛立った様子で至極当たり前な事を聞いてくる。
くすくす、と笑いながら僕は答える。
「分からないかい?答えは、とても簡単な事だよ」
一度軽く深呼吸して、間を置く。
これで終わりだ。
「僕が犯人だからさ」
軽く、なんでもないような調子で僕は言う。
周りの人間は、驚いた様で何も言わない。
聞こえたのは、皆の息を呑む音。
あっさりと告白してしまえば、本当にどうでもいい事のように聞こえてくるから不思議なもんだ。
大して証拠もないのに、犯人だと確定して欲しい場合は、犯人しか知りえないことを言えばいい。
それが、金額の事だった。新聞を読んだ時からおかしいと思っていたのだが…。
「冗談だろ?」
レイブンが懇願するような調子で聞いてくる。
「いいや。ホントの事だよ。レイブン」
僕はあくまでも軽い調子で答える。
だって、こうでもしなきゃ・・・。
「何でだよ!何で・・・」
「何で、やったのかって聞きたいのか?・・・お金が必要だったからさ。それより、なんだって金額を捏造したんですか?」
予め、用意していた理由と、当初からの疑問を僕は口にする。
「違う!そんな事が聞きたいんじゃない!」
しかし、返事をするのはレイブンだけで、エル女史を始め、アシエ達も声を出そうとはしなかった。
「じゃあ、何が知りたいんだ?」
冷たく、切り捨てるような声音で僕は問う。
「っ、レイン!」
喋りたい事がまとまらないらしく、名だけを呼ぶレイブンの声は聞いていて痛いものがある。
しょうがないだろう?もうやってしまった事なんだ。もうどうにもならない事なんだ。
これ以上はもう、勘弁し欲しい。
今になって初めて後悔する。こんな事なら・・・。
やらなければ良かった。
しかし、他に方法が思いつかなかった。
出逢わなければ良かったんだ。
何もかもが遅すぎた。
そして、誰も喋らなくなる。
「はーい。お取り込み中失礼します!王立警察隊の者です。皆様ちょっと、よろしいですか?」
そんな沈黙を破ったのは、先ほど改札のところにいた団体だ。
間に合わなかった。
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