「では、キミは?」
「えっ?オレ?オレはレイブン。ファミリーネームはないよ」
そんな正直に答えるのはまずいだろ。
こういう場合、身分を証明できないというのが一番まずい。
それだけで、犯人にされてしまう可能性だってある。
「お前、どこから列車に乗った?」
ほら、すでにキミからお前に格下げされている。
「隣町」
対するレイブンの対応も拒絶を表している。
場の空気を察したらしいエル女史が、隣に控えている女へと何か耳打ちする。何か言われたらしい彼女は、誰にも気づかれないようその場を動き、他の乗客たちを二両目へと移動させていた。
レイブンと、アシエのやり取りは、順調にはいっていないが続いている。
「昨日、早朝何をしていた?」
「何で、あんたらにそんな事言わなきゃなんないんだよ。はっきり言うけど、オレは何も悪い事はやってないからな」
「参考までに、聞いているだけだ」
レイブンにそう言い置いてから、アシエは独り言を言い始める。
「怪しい人物発見。歳は情報にあった十五、六歳少年。乗車駅も情報にあった通り隣町。彼に間違いありません」
どうやら、無線機に向かって話しているらしく、声は聞き取りづらい。
しかし、聞き取れた内容から察するに事前に情報があり、それを元に彼等はやって来たらしい。
「悪いが、一緒に来てもらう」
そう言いながら、アシエがレイブンの腕を取る。
「ふざけんな!だいたい、何の話でオレが、あんたらに連れて行かれなきゃならないんだ!」
訳が分からないと、怒鳴り散らすレイブンは、完全に冷静さを欠いている。
腕を振り解こうとしているが、アシエの力は強いようで、外れる気配はない。
「詳しくは、向こうで。さあ、列車を降りるぞ」
こうなると、連中はまったく話しを聞かないだろう。
このままでは、レイブンが連れて行かれるどころか、犯人に仕立て上げられてしまう。
彼の事だ、銀行強盗どころかスリや万引きも出来ないに決まっている。
反対に妙ないたずらには、全身全霊を込めて取り組みそうだが、今回はまったく違う。
そんなことは、ほんの数時間一緒にいたら分かる事だ。
このままじゃ、マズイのは分かってる。
けれど、ここで僕が飛び出せば、今までの苦労がすべて水の泡となる。
どうしたらいい?
「さあ、早く来い!あまりグズグズするな。列車の時間をこれ以上、遅らせる訳にはいかないだろ」
「待って、待って。マジで待って。どうしても行けって言うなら、行くけどさ。ちょっと時間くれよ。な?あいつに言ってから行かなきゃ、せめて」
引きずられながらも会話を試みるレイブンに、訝しげな表情をしてアシエが立ち止まる。
「何だ?誰に言うというんだ?お前一人で来たのだろう?」
「あ?うん。確かに一人だけど。友達が出来たんだ」
レイブンは冷静さを取り戻したのか、警察相手でもマイペースに会話を進めてゆく。
彼は、僕がココにいることを知っているのだろうか?
そして、レイブンの調子に巻き込まれ、会話は続いて行く。
何気なく、改札があるほうへ視線を向けるとなんだか騒がしい。
何だ?
ちらちらと見えているのは制服を着ている団体。
警察隊?
王国のだよな?
あれ?
違う、あれは・・・。
改札の方に視線が固定される。
たった今、目に入ったもので、全ての状況が変わる。
このままじゃ、まずい。
僕は勢い良く立ち上がる。
一つ、心を決めて、まったくこちらに気付かない連中に声をかける。
急がなければならない。
「お取り込み中、スミマセン。何をそんなに騒いでいるんですか?」
わざと惚けたように、窓の外から声をかける。
中にいる全員の視線がこちらへと注がれた。
「なんだ、貴様。関係のないものは引っ込んでいろ!」
男は、まるで興味なさそうに視線を寄越す。
「落ち着いてくださいよ。そなに怒鳴らなくても聞こえてますよ」
喋りながら僕は再び車内へ戻る。
途中、窓枠に頭をぶつけた。窓というものは出入りにはまったく向いていないという事を改めて痛感する。
少しカッコ悪い、というよりも恥ずかしい。
なんとか、列車内に降り立ち、レイブンに視線を合わせ頷いてみせる。
黙っていて欲しい・・・という意思は伝わっただろうか?
そして、王国警察隊の皆さんへ視線を向け問いかける。
「本当の、銀行強盗知りたくないですか?」
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