気の向くままに徒然と・・・
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プロフィール
HN:
遼 莉杏
性別:
非公開
自己紹介:
自称、「言の葉」使いの物書き。

遼 莉杏と書いてハルカ リアンです。


最近のマイブームは
『薬屋探偵妖綺談』シリーズ
羞恥心

創作仲間・相互リンクしてくれる方を常に募集中。
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~波と心 Ⅴ~

最初に目に入ったのは、やはり桜の木だった。自然に、その下にある人影にも目が行く。
「沙波・・・」
音にもならない小さな声で彼女を呼んだ。
彼女の頭上には当然のように縄が一本垂れており、足元にはなにもない。
「!?・・・さなみ!!」
もつれる足を、無理やり動かし彼女に駆け寄る。
もう動かないと思った彼女の顔がこちらを向く。
「・・・沙波!」
「・・・心くん」
間に合った。
彼女の足元には、草に隠れた岩が存在した。
勢いだけで、何も考えずに彼女に飛びつくと、支えきれない力が加わり二人して草の中へ消えてゆく。
「バカか!お前は、何やってんだ!!・・・くっ」
先ほど、似たような台詞を誰かに言われたなの思い出し、俺は思わず、吹き出した。
「心くん、笑ってるのか怒ってるのか分からないよ」
「うるさい、ふ、はははは」
何故だか笑いが止まらない。
視界は涙でいっぱいになり、もう何がなんだかわからない。
分かっているのは、俺の目の前に沙波がいて、彼女は無傷で生きているという事、そして、自分は傷だらけだという事だ。
「心くん、今度は泣いてる?」
「悪いかよ」
「ううん。やっぱり、心くんだね」
「何の話だよ」
「でも、何で来たの?」
「お前な・・・・」
「だって、間に合わないって思うでしょ、普通」
「手紙、消印ついてないから、直接ポスト入れたって分かったし、夕陽見ながらって書いてあったから沈む前なら間に合うと思ったんだ」
「そっか・・・」
「そっか、じゃないよ」
「何?」
真面目に話をしようと、彼女と目を合わす。しかし、彼女は小首を傾げて微笑んでいる。そんな笑顔を見るとそれ以上の言葉が出てこない。
「約束しろ、二度とこんなバカな真似するな。お袋さんどうするつもりだよ?友達、二人だって、心配してぞ?何か悩んでるなら俺が聞いてやる、どうしようもできない事があったら俺がなんとかしてやる。だから、・・・・こんな事はするな」
「うん。分かった。ありがとう」
「ああ」
俺は立ち上がり、空を眺める。
夕陽は地平線の彼方へと消えるところだ。反対側を向けば、そちらはもう夜に包まれている。



「・・・聞かないだね、理由」
まだ、草の上に座っている沙波が小さな声で呟く。
「言いたいなら、聞いてやる」
遠くを見ながら大して感情も込めずに言い捨てる。
聞く必要はないと知っていた。
黙り込んだ彼女に一度だけ視線を落とし、俺は歩き出す。
「帰るぞ」
動かない彼女に一言だけ言い置いて、階段を下りる。
しばらくすると、彼女が動く気配があった。
階段の途中で立ち止まり振り返る。
こちらを見ていた彼女と自然と目があった。
「ん」
俺は表情を崩すことなく片手を差し出す。
彼女は驚いたのか動きが止まるが、すぐに手を出した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「なんか、心くんボロボロだね」
「ダレのせいだと思ってるんだ?」
「ごめんなさい」
「いいえ」
バス停に着き、ベンチに座る。二人して無言で待っていたが、バスは5分と待たずにやってきた。
都合よく、家の近くのバス停に行くやつだ。
バスはノンストップで目的地に辿り着いた。乗客が少ないこの路線は夕方6時過ぎの今回がラストらしい。
それでも、乗客は俺たちしかいなかった。
バス停からすぐのところに二人の家はある。
バスを乗ってからもずっと繋いでいた手を解くと、俺は彼女に手を振った。
「じゃあ」
「うん、また明日」
彼女は笑顔で手を振って、家の中へと消えてゆく。
一つ大きくため息をついて俺は玄関を開けた。
リビングに入ると、案の定俺の姿を見た母親の怒りの声が飛んでくる。
何の言い訳も出来ぬまま、俺は風呂へと追いやられた。
湯船に浸かり、今日一日をゆっくりと考えた。
こんな事、二度とあってたまるか。


あれから、何も変わらないいつもの生活リズムが続いている。
相変わらず、彼女は朝一に学校に行き、俺は遅刻ギリギリの時間に学校へ行く。
隣の家に住んでいても、互いに顔を合わせることはなかった。
ただ、学校の廊下ですれ違った時に目が合うようになったのが唯一つだけ変わった事だった。


End.

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