第3話
昇降口を出ると、そこには広い校庭があるだけで誰一人として歩いていない。
「あっれー、サッカー部もう帰ってんの?早いなぁ」
「やる気ないんだな。ウチの学校」
灯りだけがついた校庭を横目に、正門に向かう。
「吹奏楽はやる気満々みたいだけどね」
永夜が校舎を振り返りそんな事を言う。同じように振り返ると、確かに所々教室の明かりがついている。
パートごとに練習するらしく、色々な教室散っているのが吹奏楽部の練習風景だ。
おかげで、校舎のあちこちから楽器の音が聞こえる。
ちなみに僕らのいたA棟は、部活禁止区域だ。
満月を背に歩いて帰る。学校からしばらくは住宅街の中だ。そこから駅を通り過ぎた所に家がある。
永夜は持っていた黒いカサを頭上に開いている。少し前を行く、くるくると回るカサに向かって僕は独り言のように話し掛ける。
「じゃあ、折角だから。スーパー寄って帰るかな」
「何で?」
くるりと振り返り、永夜は僕の言葉に言葉をなげかける。
独り言が、会話になった。
正直なところ、カサを差すのは止めてほしいと言いたいところだが、どうせ彼はそんな事聞き入れないので、あえて触れないことにした。
だから、別の事を話題にする。
「今夜は十五夜だろ?」
「うん。で、何でスーパー?」
「中秋の名月。またの名を芋名月。小芋を煮て食べるのが習慣なんだよ」
「さっすが、かなた。料理系には詳しいね」
「なんだよ。その料理系って」
「料理はお前の得意分野だろ?だから料理系」
「意味が分からない」
後ろ向きのまま歩く彼はフラフラとして危なっかしい。しかも、意識の大半は無意味に回しているカサにいっているらしく、手元をやたら気にしている。
「まあまあ。それで、スーパーで何買ってくの?」
「だから、芋」
「芋って言っても色々あるじゃん。ジャガイモ、ナガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ、ツクネイモって」
何故かリズムに乗って芋の種類を揚げていく。良くそんなに出てくるな。
「煮るんだから、サトイモが良いと俺は思うけど?」
「煮っ転がしか」
「だな。たまには季節の行事にのっとって」
「んじゃ。オレからも十五夜ネタをいくつか」
嬉しそうに彼はそんな事を言う。
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