№4
一年365日、何かの記念日が制定されているのは知っているが、それが何かなんて知るわけが無い。
カレンダーに書いてあるのなら話は別だが、7月7日に七夕以外の事が書かれているのは見たことがない。
しかし、このまま答えないでいるのも納得がいかないので、僕は自分の中にある記憶の引き出しを片っ端から開けることにした。
「あっ」
「おっ、分かったの?」
「ああ。シャガールの誕生日だ」
「かなた?」
「何?」
7月7日はマルク・シャガールの誕生日だ。思い浮かんだのがそれだった。もちろんマルク・シャガールとは、あの画家のシャガールだ。
「ダレが誰の誕生日か?って聞いたのさ?」
「じゃあ、コナン・ドイルの命日」
「かなた~」
どちらも、本を読んでいて得た知識だ。これ以上深く聞かれても何も答えられない。そんなどうでもいい記憶。
ついでに言えば、7日は大安でもある。しかし、これは7月7日に限ったことではない。
「何か文句あるか?何の日だときかれたか答えただけだろう」
「そうだけどさ、かなた。何ってーのかな、何か違うんだよ。うん。ってことで、不正解!」
「だろうな。で、正解は?」
「ポニーテールの日!」
「は?」
答えを聞いてから、どこかそれに期待していた自分がいることに気がついた。
「何で?」
「う~ん、その前に7日は浴衣の日でもあるんだよ」
「それが?」
「だから」
と説明が終わりだと言うよようなニュアンスの言葉に僕は意義を唱える。
「って言われても納得できるわけないだろう」
「そう?」
「当たり前だ」
「そっか。まあでも、浴衣の日はなんとなく分かるだろう?」
「ああ」
「んだから、その浴衣にポニーテールが似合うっていう理由と、織姫がポニーテールだったていう理由から」
「納得できないぞ、その理由」
「そんな事言われても、オレが決めた訳じゃないから困るよ」
♪さ~さ~のは~ さらさら~ のぉき~ばにゆぅれる~ お~ほしさ~ま き~らきら
僕の抗議をあっさり受け流し彼は陽気に歌いだす。
「永夜。音程ズレてる」
♪き~んぎぃん すな~ご
最後まで唄う気らしく、彼は止まらない。狂いだした音程は最後までこのままだろう。
♪ご~しき~のた~んざく わ~たしがかい~た お~ほしさ~ま き~きらきら
そ~らからみ~てる
歌い終わると満足したのか、彼はそれまで寄りかかっていたフェンスから離れ歩き出す。
「お前、音痴すぎ」
「あははは、細かいこと気にしなさんさ。今年の七夕は晴れるといいな~」
「そうだな」
「ってかなたは帰らないの?」
「は?」
じゃ~ねぇ!と手を振りながら、永夜は先ほど僕が開け損なった扉の向こうに消えて行く。
ドアを見つめること数秒。
「あんの、バッカ・・・」
置いていかれた事に気づいて僕は慌てて、永夜を追いかけた。
end
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