第1話
遠くまで広がる蒼い空はすぐに赤色に変わり、やがて、闇が訪れるだろう。
「秋の日は釣瓶落とし」とは良く言ったものだ。
教室の窓は開け放たれ、冷たい風が吹き込んでくる。カーテンがひらりと舞い上がり、それにつられるように、掲示物がバラバラと音を立てている。静かな教室ではその音もよく聞こえた。
「どわっ!」
椅子に座り、天井を仰いでいたはずの永夜が急に不思議な声を上げる。
「かなた!マド閉めろ、マド」
彼に視線を移すと、床に散らばったプリントをかき集めている所だった。
どうやら、風で飛んだらしい。
「あ、悪い」
「悪いと思うなら手伝ってほしいですけど・・・」
窓を閉めて、彼の元へ向かう。
しかし、プリントはすでに回収されており手伝う必要はなさそうだ。
「まだ、終わらないのか?」
「だから、手伝ってて」
「それは無理」
「だって、絶対終わらない。無理。あんの、ババァ無茶言いやがって何が楽しくってテスト終了後にこんな事を・・・」
ブツブツと文句を言いながら、教科書をめくる彼は見ていると面白い。
彼が今やっているのは、世界史の課題。
穴埋め問題がズラッと問い500まで並んでいる。
単純に教科書の穴埋めなので、難しくはない。
けれど、飛び飛びに書かれているため同じ文章を探し当てるのが中々面倒な作業なのだ。そして、数も相当多い。提出期限は明日の授業。
出されたのは3日前。
「得意じゃないのか?歴史は」
「こんな、オレが生まれる前の事なんか知るか」
何で彼がこんな事を、誰も居なくなった教室でやっているかというと、単純にテストの点数が悪かったためだ。
再試でも、条件-同じ内容のテストで80点以上-をクリアできなかったためにこんな事になっている。
「終わらないと帰れないぞ?待ってやってるんだから早くやれ。今どの辺?」
「304」
「・・・・俺、ちょっとトイレ」
「かなたぁ~。そのまま帰るなよ?」
「わかってるよ」
教室を出て、そのままトイレではなく食堂に向かう。この時間ならまだ、何かしら売ってるはずだ。
教室があるA棟から食堂のあるC棟までブラブラと歩く。
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