№1
「で、何でこんなところへ?」
「だって、今どきそのまんまで、でかいかぼちゃは八百屋に来なきゃないだろう?」
「だからって、何で電車乗り継いで?」
「電話して聞いたら、ここにあるって」
2つほど電車を乗り継いで、やって来た駅は小さな駅だった。
駅前ロータリーは程よく寂れており、目の前にある道は大通り・住宅街に続く道・どこへ続くのかわからない細い道、そして、あまり上りたくない急な坂道が1本あった。
「電話?番号はどっから?」
「黄色くて分厚い本で、片っ端から」
大通りを少し行くとそこは良い感じに寂れた商店街だった。
やたらと目に入るのは、黒やオレンジ紫といった色をベースに愉快な絵が描かれたポスターだ。
「で、かぼちゃなんか何に使うんだ?お前、料理なんてできないだろう?」
「オレが欲しいのは、中身じゃなくて外っかわ。中身はお前にくれてやる」
「俺に中身をどうしろと?」
「その辺はお前にまかせる。っと、スミマセーン!電話した天崎ですけどー!」
商店街の真ん中に位置する八百屋は、絵に描いた様な八百屋だった。
「ッい!っらっしゃい!電話?天崎さん??ちょっと、待ってね?ッい!母ちゃん!」
八百屋の主人もまるで、用意された人のように八百屋にぴったりはまっている。
ちなみに、最初は「はッい!」と後は「おッい!」となる。
ちょっとした音の違いだが、客用と身内用で意味が異なるようだ。
永夜が興味津々といった感じに並んでるもの―というより店の作り―を眺めている。
僕はそんな彼を眺めながら、どうでもいいことを考え巡らせている。
「はいはい。かぼちゃのアマサキさんね。あんた、裏のかぼちゃだよ?早く持ってきてあげな」
「ああ、あの?へぇ~めずらしいね。あんなでかいの何に使うの?」
「へっへ~、ちょっとね。それよりさ、おじさんあの坂の上って何があるの?」
「坂の上?」
「住宅街だよ。綺麗でオシャレな家がいっぱいのね」
聞かれたおじさんではなく、おばさんが少し嫌味っぽく答えた。おじさんは、そんな彼女を横目に店の奥へと消えていく。
「なぁんだ。何か面白いもんあれば行ってみようと思ったのにな」
「行くなら一人で行けよ」
「だから、行かないって」
「どうだか」
「おばさん、かぼちゃいくら?」
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