№3
「どういうことだ?」
「そういう民族なんだよ。ケルト人って。正確な括りがないんだ」
「括りがない?」
「うん。ケルトってのは、ヨーロッパにあって2500年以上の歴史があると言われている。だけど、ケルト人たちは文字を持ってなくて、自ら歴史を書き残すような事はしていない。だから、あいまいで実態がとらえにくいんだ」
「文字を持たないのに、何故その存在が伝えられてるんだ?」
「文字が無くとも、残るものは残るさ」
そんな言葉を最後に彼はカボチャと真剣に向き合う。
「時々思うのだけれど、永夜」
「なに~?」
何やら楽しそうにカボチャと向き合う永夜は、見ていて面白い。
「お前のその無駄知識はどこから出てくるんだ?」
「ん~、時間だけは有り余ってたからね。なあ、どうよ?」
そう言って、彼がとびっきりの笑顔で見せたのはカボチャの表面に黒ペンで書かれた顔のようなものだった。
「・・・・・・・・」
「何?何で無反応なの?」
「お前、センスない。てか、下手すぎ」
「ひどっ。しょうがないだろ!美術だけは何度やっても2なんだ。1じゃないだけマシだろ?」
「別にお前の成績の悪さは聞いちゃいないよ」
「だって」
「だって、じゃないだろう?せめて、目の高さは合わせろ。どうして、口がそこにあるんだ。下手にも程があるぞ」
「・・・・ホントだ。ズレてるな」
真正面から、カボチャと見つめあい落胆している姿は、見ているこちらがせつなくなってくる。
「何で書いてる間に気づかないんだよ」
落ち込みたいのはこっちだ。
水性ペンだったらしく、先ほど書いた顔を消して再びカボチャと見詰め合う永夜と並んで、僕は冷蔵庫と再度向き合う。
「豪華にね・・・」
無い物は無い。
「なあ、さっきの続きは?」
「・・・何?」
集中しているらしく反応が遅い。冷蔵庫の中身から作れそうなものを考える。
鶏肉か・・・・。
「ケルトの話」
永夜から返事があるのを待ってから、短くリクエストする。
「・・・何?聞きたい?・・・ケルトはね面白いから語りがいがあるんだ」
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