「中秋の名月。またの名を良夜」
「りょうや?」
「良き夜と書いて良夜。月の明らかな夜って意味」
数歩後ろを歩いていたのだが、彼の話を聞くために並んで歩く。
「ついでに、望月(もちづき)、明月(めいげつ)、三五(さんご)の月なんてのもみんな、十五夜の別名。実はまだあったりするけど・・・」
「へぇ~」
なんとなく相槌を打ちながら彼の話に耳を傾ける。
「ちなみに。十五夜ってのは、旧暦8月15日なんだけど・・・最近じゃあ、えっと、9月7日から10月8日の間に訪れる満月の日の事を言う。それが、今日25日ってわけ。」
永夜は上空を指差し、視線を上へと向ける。
クルン、クルンとカサが不定期に回っている。片手だと回しづらいらしい。
「という訳で、今日は1年のうちに、最も澄んで明るく月見には適した日らしい」
彼のそんな言葉聞き、僕は満月を振り返る。
「もともと、十五夜は、七夕と同様中国のもので、向こうでは三五の夜って言って天人が降りて来る日で、果物や枝豆、鶏頭だのを庭先に並べて月を見ていたものなんだ」
「何か大分違うな。何で枝豆?」
「そこを気にするのか、お前は」
「いや、なんとなく。いいよ、別に。その三五の夜が日本に来たんだろ?」
なんとなく、合わないなと思ったのだ。果物や、鶏頭はイメージ的に想像がつく。天人というのも、中国という感じがするが、どうも枝豆は違う気がするのだ。
「ああ、うん、そう。日本に来たのは平安時代。ほら、イメージ的にもこの辺の人たちはしょっちゅう月見してそうじゃん?民衆に伝わったのは江戸時代かな」
「ああ、確かに」
平安時代の貴族のイメージとして確かに月を見ながら宴を開いてる感じだ。
「日本ではススキを飾ったり、団子飾ったりが一般的・・・さて、問題デス。この時飾る団子はいくつでしょう?」
「は?」
「ほら、イメージでは良くピラミッド型に詰まれた団子があるじゃない?あれ、いくつか知ってる?」
「10個とか?」
「おしい!」
適当な数字を言ってみたが、僕の感はあまり当たらないらしい。永夜が大げさな動作付きで惜しかった事を強調している。
「団子の数はその年の旧暦の月数。つまり、12個ってのがだいたいの決まりらしい。ちなみに閏年だと13個だけど」
しかし、彼の答えはどうも納得がいかない。
「少なくないか?」
「う~ん。確かに。良く見る絵では団子山積みだよな?12じゃピラミッド作れないし・・・」
それまで、前を見て楽しそうに語っていた彼は途端にテンションがさがり、歩くテンポ急激に落ちる。
どうやら触れてはならない事だったらしい。
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