2階を通りすぎて、屋根裏部屋へ着く。そこは、3日前とまったく変わらない空間が存在していた。
迷路のように、部屋を仕切る本棚。多すぎる時計。
「ちょっと、待っててくれる?」
「あ、うん」
「そこ、座ってていいから。シノ!」
どこかにいるであろうシノに呼びかけて、セツイは部屋の奥の方へと消えていく。
「ハァイ!イッラシャイ、オ嬢、元気?」
「うん。元気だけど・・・」
セツイと入れ替わる形でシノが飛んでくる。シノのテンションは無駄に高い。
「ホントニ元気ナノ?声ガ出テナイヨ?オ嬢」
やや、心配そうな声でシノは聞いてくる。
首を傾げて見上げてくる姿は、鳥の姿にミスマッチでなんだかおかしい。
「平気、平気」
「無理ハダメヨ?セツミタイニ風邪引イチャウカラ」
「平気だって、全然大丈夫だから!」
「シノ、余計な事は言わなくていい。それから、全然大丈夫って日本語はおかしいよ?」
「アッ、セツ。オ帰リ、今日ノ菓子ハ何?」
「ピーチパイ。缶詰がいっぱいあったから」
「ピーチパイ・・・」
「何、もしかして桃は嫌い?」
「え?いや、全然大丈夫・・・っ」
言ってしまってから、しまったと気づいてももう遅い。
言葉は音となって出てしまっている。
「なら、いいけど。全然って言葉はさ、後に否定形の意味の言葉がついて初めて日本語として成立するんだよ。知ってた?」
「えっと、いえ。あ・・・」
何をどう言ったらいいものか瑞希は言葉に詰まってしまう。
「セツ、日本語講座ヨリモ、オ菓子ノ説明」
「え?説明?何を?ピーチパイだと言う以外に何と言えというんだ」
「色々ネ」
「色々ね。お菓子の説明よりも、他に話さなきゃならないこといっぱいあると思うけど?」
セツイのその言葉で、ここへ来た目的を思い出す。
「そうよ!私は、説明を聞きにきたの!あ、お菓子の説明じゃなくて、時計の説明だからね?」
「分かてるよ。だから、そんなに大きな声出さないでくれる?」
眉間に皺を寄せ、瑞希を睨むセツイ。
セツイに睨まれ、いたたまれない思いの瑞希。
その二人の間で、ピーチパイに目を輝かしているシノ。
それぞれ、3人(?)の間にまったく異なった空気が漂う。
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