「寝てる場合じゃないよ。キミが起きなきゃ次へ進めないだろう」
瑞希の周りではあまり聞かない声。中途半端に高いが、少年だと分かる不思議な声は機嫌が悪いのか全体的に言葉にトゲが生えている。
しかし、その事が彼女を現実へと導き出した。
「あ・・・」
目の前に見えたのは銀髪の不機嫌な顔。
「あ、じゃないよ?今、寝てたでしょ?」
「え?そんな・・・」
「事は無いって言い切れる?」
明らかに不機嫌丸出しのセツイは、何故か手に小さな花束を持っている。
不機嫌な表情で片手に花束を持ち、気だるげに立っている様子は何かの絵になりそうだ。
「まあ、いいや。やっと分かったから」
「分かったって?」
「瑞希がどうしたいのか」
セツイは澄んだ声でそう言いきった。それは、不機嫌さなんて微塵も感じられない自信に満ちた声。
彼の感情はころころと変わる。
「セツ、オ客様第一ネ」
そんなセツイを咎める様なシノは、何故か全身葉っぱまみれだ。
「それ、何?」
セツイの持つ花とシノ姿は関係があるのかと思いながら聞いた質問は簡潔すぎて相手に伝わらずに終わってしまう。
「見て分からない?花だよ」
しかし、対するセツイの答えもごく簡単なものだった。
花なんて、見れば分かる。
「セツ」
「分かってる。これ、何の花か知ってる?」
「ううん」
自慢じゃないが、花なんて分からない。タンポポとか紫陽花・向日葵・朝顔・薔薇・・・知っている花なんて数えられるほどしかない。
「ローズマリーにレモンバーム。代表的なハーブ、聞いた事くらいはあるだろ?」
瑞希はハーブと聞いて納得する。花束にしては随分とおかしな組み合わせなのだ。
「さて、話しを戻そう。何が見えた?」
小さな少女とその母親。
それは、見たことがあるようでない2人
「女の子とお母さん?」
「心当たりは?」
「さあ?知ってるような、知らないような・・・」
瑞希の言葉を聞き、セツイが天を仰ぐ。
「完璧だと喜ぶべきか、加減が出来ていないと悲しむべきか・・・」
前髪をかき上げながらセツイはそんな事を呟く。
「両方ナンジャナイ?」
暗いセツイの声色に対し、明るい調子でシノが応じる。
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