だから、愛しい娘に言い聞かせる事にした。
自分はいなくなるけれど、どうか幸せに生きて欲しいと。
母の存在に縛られる事なく、どうか自由に生きて欲しいと。
どうか、母を忘れこの先何の障害にも負けずに強く、強く生きて欲しいと。
それが、ママの願いだったとセツイは言う。
バカみたいに正直だった私は、忘れて欲しいと言ったママの言葉を素直に実行した。
しかし、ママの存在を忘れてしまっても、約束だけは心のどこかで覚えていた。
結果、今にいたる。
彼の説明をまとめるとそうゆう事になる。
「だから、言ってるだろう?ここは、夢を売る店。現実には叶わない夢を与える店なんだ」
「なんとなく分かった気がする・・・。」
「うん。それは良かった。本当の答えは、君にしか知る事ができない。僕はこれ以上の手伝いはできないから」
「分かった。ありがとう助かったっていうのかな?会えて良かったよセツイ君」
「どういたしまして」
「それで、あの・・・お金とかは?」
「お金?」
「うん」
「ああ、必要ないよ。時計代に含まれてるから」
「ウソ、だって時計2100円だったよ?これって普通の値段だよね?」
「そう?まあ、ともかく必要ないから。悪いけど、このまま寝るわ。お帰りはアチラ」
ダルそうにソファーに横になりながら、セツイは瑞希の背後の階段を指差す。
すぐに動くべきか、彼を心配するべきか逡巡する間に、セツイから寝息が聞こえてきた。
どうやら、もう寝てしまったらしい。
瑞希はこっそりと部屋を出た。3日前は下りなかった階段を一人で下りる。上りの時はあまり感じなかったが、下るときは結構怖い。
ゆっくりと、階段を下りてゆく。
店にまで辿り着くと、そこにはいつの間に部屋を出たのかシノが待っていた。
「オ嬢、マタネ!元気デネ。」
「うん。ありがとう、シノ・・・君?ちゃん?」
「シノハ、クンダヨ」
「そう、じゃあ、またね!シノ君。セツイ君によろしくね」
「ウン、バイバイ!」
カランカランとカウベルが鳴り瑞希を送り出す。
多分、2度とこの店に来る事はないだろう。考えながら、煉瓦の建物を振り返った。
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