結果的に瑞希は約束を思い出した。
このまま順調に行けば彼女の願いは叶った事になる。
過去に来た客のことまで一々覚えておくのは難しい。最初はまったく思い浮かばなかった。
けれど、今考えてみると充分納得のいくことばかりだ。
理由がハッキリしないで、うちの店に来る客は珍しい。
大抵は、「願い」が大きすぎて自分ではどうにも出来ない客が訪れる。
無意識で願っていることでも、話しを聞いていれば自然に分かる。
瑞希の場合は例外だ。彼女は、彼女自身の願いと言うよりも、母親の願いに誘われる形でこの店にやってきた。
だから、彼女に願いを聞いても答えようがなく、心当たりもない。
過去と未来というのも、どちらかではなく
「ママ」が未来へ
瑞希が過去へ
という事だ。
本音を言えば、瑞希への忘却の術は強すぎた。
あそこまで、綺麗さっぱり忘れていたのは予想外だ。予定では、十年も経てば少しずつ術の効果が薄れ、誕生日にはハッキリと思い出し、店の世話にならなくとも成功するはずだった。
「つまり、お前があのお嬢さんを呼んだのかい?」
「・・・そういえない事もない」
翁の言葉にセツイは、感情の篭らない声で返す。
瑞希が、あの時の幼い少女だったと気づいたのは、彼女にまじないをかけた時だ。
最初に名前を聞いた時に、なんとなく引っかかるものがあったが、それは似たような名前を聞いたことがあるからだろうと、気にも留めていなかった。
随分と遠回りをしてしまった。
けれど、これでもう終わりだ。
あの母親も満足するだろうし、少女も納得いくだろう。
後はあの娘次第だ。
夢の見方もあの娘次第で大きく変わる。
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