~波と心 Ⅲ~
幼い頃の行動パターンを思い出すが、あのころはいつも主導権を彼女が握っていた。後ろをついていくだけの俺は、どこを、どう行って色々な場所に着いていたのかがわからない。
それに、あの頃とは街も大きく変わっていた。
あったものが無くなり、無かったものが増えている。
『あれ?話が変わりすぎたみたい。
どうしょうか?今になって、あなたにもう一度だけ会いたいと思う私がいます。いつのまにか、会わなくなったのはどうしてだろうね?高校も一緒だと知った時は嬉しくてしょうがなかった。たとえ、話をしなくても、目を合わせてくれなくても嬉しかった。』
どうしようもない、罪悪感。
別に彼女を嫌っていたわけじゃない。避けていたわけでもない。
『私には私の世界があって、心一には心一の世界があった。二人の世界が重ならなかっただけの事。それでも、同じ場所にあったって事だから、嬉しかったんだ。幼馴染なんだってみんなに自慢しちゃった。だから、最後の最後に謝ります。いろんな話をみんなにしたから、きっと心くんのイメージガタ落ちなんだ。だから、ごめんなさい。』
何が言いたくて、彼女はこの手紙を残したんだろう?
『もう何年も行っていなかったので、今もあの場所が同じ状態で保たれているかはわかりません。けれど、私はあの場所から見る夕陽が好きだから。最後に見るのも夕陽がいいと決めたからあの場所に決めました。』
夕陽という単語を見つけ思わず天を仰ぐ。
まだ、沈みきってはいない。
正に沈み始めた夕陽は自分がいる低くビルに囲まれた位置からは見えづらい。
もしかしたら・・・そんな思いが浮かび俺は走り始める。
もうずっと行っていなかった場所を思い出した。
街外れの小さな丘。
大きな桜の木があって、いつも彼女は木登りをして、遠くを眺めていた。
街が全部見えるんだと言って喜んで、何度も昇って来いと誘われたけど、当時の俺にはそんな高いところに昇るなんて、恐怖以外の何者でもなかった。
手紙の最後の一枚をめくる。
そこには、短い一つの文章だけ。
『最後に心へ・・・今までありがとう。』
冗談じゃない。
こんなわけの分からない状態で、最後とか言われても納得できるわけがない。
走って、走って、走って・・・・。
彼女がこの手紙を残した理由を考える。
・・・彼女は俺を待っている。
何の根拠があるわけでもない。ただ、単純にそう思っただけだ。
髪が乱れるのも、服が乱れのるも、息が上がるのも気にしない。
ただ、走るのみ。
信号も待たずに、突っ走る。
夕方の街の中にけたたましいクラクションが響き渡った。
ほぼ同時に、甲高いブレーキ音、周りの人間の悲鳴。
何事も焦っちゃいけということを思い出したが、それはもう遅い。
赤信号を渡ってはいけないというのは誰もが知ってることだ。
だけど、そんなもの待っていられない時もある。
大丈夫だろうと思ったときほど危険な時はない。
一瞬で世界が暗転する。
体中に衝撃が襲い、痛みが走る。
音が消え、感覚が消え、意識が飛ぶ。
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