~波と心 Ⅳ~
日暮れをこんなに気にした事は初めてだ。
沈むな、沈むなと願いながら、ただひたすらに走り続ける。
街の中心部から、外れまでどんなに急いでも30分は掛かる。
秋の夕日ではないから、日が落ちるスピードはそんなに速くない。
けれど、このままでは間に合わない。
走って走って走って・・・・。
体育の授業でもこんなに走った事はない。
「っくそ」
心臓が早鐘を打ち、息が詰まる。
肩が大きく上下し、足が上手く動かない。
「あっ」
動かない足が絡み、地面へとダイブする羽目になった。
立ち上がり、服についた汚れを払う。
あちこちに血が滲んでおり、先ほどの事が思い出されると同時に大事な事に気がついた。
自分が着ているのは制服だ。
「やべ、怒られる」
そして、明日も学校だ。
変に冷静になってきた頭で、嫌なことを色々思い出す。
そんな自分の前をあるものが通過した。
「あ、バス・・・・」
少し視線をずらしたところにバス停が見える。
「バスか!」
急いでバス停に向かう。
止まったバスに駆け寄り、ドアが開くのを待つ。
ピー、が、がちゃん。
少々乱暴な音がして、ドアが開く
「あ、運転手さん、すみません。このバス、桜の丘まで行きますか?」
「・・・大丈夫か?坊主。ああ、桜の丘は終点だ。」
傷だらけの姿を見たからか、運転手が一瞬黙り込み、短く言葉を発した。
「ありがとうございます。自転車で派手にこけちゃって・・・。どうやって帰ろうかなって思ってたとこにバスが」
適当な事を言ってごまかし、自分の今の姿に理由をつける。
「そうりゃあ、良かった。乗っていきな」
ブレザーの内ポケットから生徒手帳を取り出し、千円札を取り出す。
母親がもしもの時のために入れておきなさいと言ってくれたお金だ。
「坊主、いいから早く座りな。このままじゃ、遅延が出る」
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