セツイの声で、思考が止まる。
「キミ自身が忘れていたみたいだけど、どこか・・・心の奥底で覚えていたんだね」
「・・・・・・・」
「だから、それが時計に現れた。『会いに来る』という言葉を信じている反面、そんな事は絶対にないと思っているキミの心が時を進め、また早めたんだ」
感情の篭らない声。ただ、淡々と説明してゆく。
冷たい声だと瑞希は思う。しかし、聞いていてどこか気持ちの良くなる綺麗な声だ。
「大丈夫」
「え?」
「誕生日を楽しみに待っていればいいよ。僕が保障する。『ママ』には絶対に会えるよ」
にっこりと微笑み、彼は自信たっぷりにそんな事を言った。
「時計も誕生日を過ぎれば直るだろうし、ただそれまでは我慢して欲しいけどね」
そして、忘れていた当初の目的を思い出す。
「今、治らないの?」
「うん。ボクには無理だ。もちろん、他の時計屋に言っても直らないよ。あと1週間の我慢だね」
机に寄りかかっていたセツイがこの部屋唯一の扉へと向かう。
やはりそれには、ドアノブが存在しない。
「今日はもう遅いから帰った方がいい」
振り返り瑞希を見るが、動く気配がない。そのままセツイは視線をずらしシノを見た。
「セツ、オ嬢ハ思考停止状態ネ」
「そうみたいだね」
ドアへと向いていた足を、瑞希の方へと方向転換し、セツイは瑞希の前に立つ。
「大丈夫。キミの誕生日には全てが分かる。さあ」
瑞希に手を差し出し、彼女が動くのをセツイはジッと待った。
手を眺めたまま瑞希は動かない。
「手を」
「え?」
「キミは最初から最後まで、そればっかりだね」
クスっと笑いながらセツイは瑞希の手をとり、立ち上がらせる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
そのまま、セツイは瑞希をドアの前まで連れてゆく。
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