「ンデハ、コレヨリ我ガ夢想屋ニツイテ、説明スルヨ」
「はい」
ソファーの上に正座をする訳にはいかなので、瑞希は無理矢理背筋を伸ばす。
これ以上は無理ってところまで。
「ソンナ、改マル必要ナイネ、セツ、オ茶!」
そんな事を言うシノにセツイは一瞬、表情を曇らせる。
「シノ、お茶なんて飲めないだろう?」
「違ウネ、セツ。オ茶ハオ嬢ニネ」
「ああ、そう」
言い終わる頃には、すでに瑞希の前に紅茶が用意されている。
どうぞ。
と小さな声で進めてくる。
「セツ!」
「何だよ」
「クッキーガナイヨ!」
そういえば、いつのまにか消えている。
さきほど、瑞希が席を立つまでは、お皿に並べられたクッキーが存在していた。
いつの間に?
「ごめん」
「何ガ、ゴメンナノ、セツ?」
「いいから、早く仕事。シノ、後でまた焼いてあげるから」
「えっ!あなたが焼いたクッキーだったの?」
「そうだけど」
セツイという人間はどこまでも理解できない。
「オ嬢、コレデ驚イチャイケナイネ。セツ、モット凄イ物作ルヨ」
「シノ、仕事」
「分カッテルヨ。セツ、アンマリ煩イト、オ客様ガ逃ゲルヨ」
「分かってるよ。シノ、あんまり待たせると、そのお客様が帰るよ」
シノの口調を真似てセツイが瑞希へと視線を投げる。
「アア、ソウネ。ソレジャ、始メヨウカ」
漸く仕事をする気になったらしく、シノがセツイの手から机の上へと下りる。
バサァっと翼を広げて体勢を整える。
こうして見ると、意外にシノは大きな鳥だった。
ランプの炎に照らされて、幻想的な姿をしている。
色は、良くわからない。
炎と同じ色だとも言えるが、先ほどセツイの肩に乗っている時は漆黒の翼を持っていたはずだ。
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