しばらくすると、2人分の階段を下りる音がする。
「こちらのお嬢さんじゃよ」
翁と共に下りてきたのは、瑞希と同じくらいの身長の高校生くらいの少年だ。
「あっ、あの、こんにちわ」
下りてきた少年と目が合い、瑞希は誤魔化すためにも軽くお辞儀をしながら挨拶をする。
目の前にいるのは、確かに玲の言ったとおり不思議な子だった。
白のワイシャツと黒のパンツ。
ワイシャツは第2ボタンまで開けており、見た目はちょっとダラしない。
腰には、様々な物が入ったエプロンのような物を巻きつけている。
意味があるのか無いのか小さな丸眼鏡は、おとぎ話のお爺さんが良く付けているものに似ていた。
彼のどこが不思議かと言うと、頭の色が不思議なのだ。
確かに、最近ではおかしな自己主張をする若者が、ありとあらゆる色に染めているが、目の前にいる少年の色はあまり見かけない。
少年の髪色は綺麗な銀色をしていた。
染まりそこないのような銀髪は見たことがあるが、ここまで綺麗な色は始めて見る。
何色というのが一番しっくり来るのかは良くわからない。
銀髪だと言われても納得できるし、白髪だと言われても納得できる。
「どうも。」
少年は、瑞希に短く答えるが、そばにいる翁に睨まれ深々とお辞儀をする。
「ようこそ、夢想屋へ」
お辞儀と共に発せられた言葉はとても聞き心地の良い物だった。
声変わりを完全に終えていないらしく、その声は成人男性に比べるとかなり高音だ。
「今日は修理で?」
「はい」
「見せてもらっていい?」
少年に言われ、瑞希は腕時計を外して手渡す。
時計を受け取った少年は、それを見て一瞬表情を変える。
瑞希の見間違いでなければ、それは嫌悪感表すようなものだった。
時計へ向けていた視線を、そばにいる翁へと向ける。
「翁、今日は終わりだ。表にプレート下げといて。」
「はいよ」
翁は軽く返事をすると、入り口へと向かう。
「キミは、こっち。一緒に来て」
少年に促されて、瑞希は先ほど彼等が下りてきた階段を上がる。
少し上がるとそこは広くなっており、部屋へと繋がる。
存在する家具から察するとリビングのようだ。
しかし、少年はそのまだ前へと進む。
今までの階段より急になったものがそこにはあった。
どうやら、屋根裏部屋のようなものがあるらしい。
階段を上りきると、おかしな空間にでる。
確かにそこは、一般的に屋根裏部屋と呼ばれる場所だ。
「あの、テンシくん・・・」
確か翁がそう呼んでいたと思い呼びかけたが、彼は物凄い勢いで振り返った。
「ええか?オレの名前は天使やない?そないな呼び方せんといてもらえる?」
振り返ったのにも、ビックリしたが彼から出た言葉にもビックリした瑞希は、言葉も出ない。
当の少年は、部屋の奥へ行くと、何かを手に持ち戻ってくる。
見ると、それは小さな黒板だ。
「良く見とき」
カッカッカッカ・・・と黒板に字を書く特有の音が響く。
「ほれ」
と言いながら少年は黒板をこちらに見せる。
「天の川の天に、使う。雪の衣と書いて、あまつか、せつい。これがオレの名前や」
黒板に書いた、一文字一文字を指しながら、少年こと雪衣は説明する。
「天使、雪衣?」
「そうや。覚えときぃ」
「大阪の人?」
「あんなぁ、関西弁喋れば誰でも大阪人思うのはよろしくないで。ちなみに、オレは浜ッ子だ」
妙な浜ッ子もいたもんだ。
と瑞希は思ったが声には出さずに違う言葉を口する。
「嘘だ・・・」
ところが、良く考えれば、こっちの方が失礼だと気付いたがもう遅い。
「どうして、そう思う?」
と聞く彼の言葉は少し怒気が含まれるが標準語だ。思い出してみれば、先ほどのセリフも後半部分は標準語だった。
「まぁ。話せば長くなるから、取りあえずそこ、座っとき」
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