止まったのは手だけではない。
玲の動きそのものが止まってしまっている。
「玲?」
「みず、あれ」
「あれ?」
玲が声だけで示したのは、闇の深い場所だ。
何もないと思っていたのに、そこには何かが浮いている。
ギシ、ギシ、ギシ
と床を歩くのと同じような音が響いてくる。
しかし、床を歩く音とは少し違う。
「ランプ?」
その、何かはゆらゆらと揺れている。
そして、それは少しづつ大きくなってくる。
階段を下りているという事が分かったのは、その姿がボンヤリと見え始めてからだ。
ランプを持った小柄な人物が階段を下りてくる。
2人には見ていることしか出来なかった。
しかし、ランプの灯りでは顔までは見えない。
件の人物は階段を下り終ると、彼女たちの存在を無視して壁際へ向かう。
すると、彼女たちが気付かなかった物がそこにはあった。
その人物は手に持つランプから壁へと灯りを移す。
その時始めて、顔が見えた。
老人だ。
しかし、どこかで見たことがあるような、そんな親近感を感じる姿だ。
老人は残りの5つにランプをつける。
ランプは左右の棚の間に3つづつ。計6つ存在する。
全てのランプに火がつくと、ようやく部屋の中を見渡せるほど明るくなった。
「やぁ、お嬢さん方。暗かったろう?客なんて滅多に来ないもんでなぁ」
とお爺さんは明るく笑う。
2人は顔を見合わせるしかない。
不思議そうに、お互いの表情を確認する。
「いらっしい。さぁ、お嬢さんの探し物は見つかったかのぅ?」
にっこりと微笑みこちらへ向かって歩いてくる。
「あの。お1人で経営されているんですか?」
何故か、瑞希の中にはそんな疑問が浮かんだ。
多分、理由としては並べてある品物と、お爺さんとが上手く結びつかないからだろうか。
「いや。わし、1人ではないよ。もう1人おる」
「お爺さん、あ」
玲のセリフが途中でお爺さんの上げられた手により止められる。
「人には、翁と呼ばれている」
「あ、えっと、じゃあ翁さんもう1人の方って・・・」
と再び玲のセリフが再び途中で止まってしまう。
玲の視線の先では、お爺さんが、いや翁が何か作業に没頭している。
「あの!これっていくらですか?」
しかし、瑞希はそな彼の行動を無視して声をかける。
ついでに、玲の発言も無視だ。
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