周りを凍りつかせるのは、ある意味では僕の特技だ。
遠慮なしに喋るから、周りがついて来れなくなる。
しかも、普段はまったく喋らないやつが急に喋るものだから、余計だ。
「まず、夫婦だって言う割には、指輪してないから」
そう、彼らは変なのだ。
レイブンのように、何も考えてないやつが見る分には何も感じないだろうけど・・・。
まず、第一に服装。
金持ちを装って、無理して着飾っているのが見え見えだ。
きちんと、着慣れた人が着ればらしく見えるのに、こいつらは全然違った。
指輪だって、夫婦は互いに薬指にそろいの指輪を着けるのが普通だ。
しかし、彼らは着けていない。
アガットは指輪を着けてはいるが、それは薬指ではなかった。
「もちろん、爵位持ちかって聞いたのも引っ掛けだ。まさか、本当に乗ってくるとは思わなかったけど」
「すっげ~!?レイン!」
素で感動しているレイブンをよそに、話しの中心に居る偽貴族は気が気でないらしい。
「すまなかった!」
パロットが机に頭をぶつけそうな勢いで下げる。
「キミたちに悪気が有った訳ではないんだ。頼む!この事は誰にも言わないでくれ!今捕まったら、全てがパァーになってしまう。」
先ほどまでの偉そうな態度から一転して、ひたすら頭を下げるパロット。
これでは、周りに「何かありました」と教えているようなもんだ。
「別に、あんたらが何のために、そんな嘘付いてるかはどうでもいいよ。追求はしない。ただ・・・。ここの飯代よろしく」
と、にっこり微笑んでパロットに視線を合わせる。どう見ても、子どもな僕に少し揺さぶりをかけられて崩れるやつなんて、たかが知れている。きっと、計画とやらが全て終わる前に何か失敗して逮捕されるのがオチだろう。
「あ、ああ・・・。わかった」
引きつった表情で返事をするパロットと、その横で青ざめているアガットを置いて僕らは食堂車を後にした。
「なあなあ、どうしてあんな話ししたんだ?」
ボックス席へ帰ってくるまでの間もずっとこんな感じにレイブンが聞いてくる。
もちろん、僕は答えない。
「指輪以外にも、なん引っかかったもんがあったんだろ?」
最後に、昼もどうだとアガットに誘われたが断ってきた。
そんなに何度も大勢で食事をしたくない。
「ちょっと、聞いてます?レイン君?」
「ああ、うるさい。あんな連中、まずこの列車に乗ってる時点でおかしいんだよ。」
「はあ?何で?どうして?」
「知るか」
これ以上喋るのは、本気でまずい。
余計な事まで喋る訳にはいかないんだ。
これまで、黙っていた意味がなくなる。
ふと気が付いて見れば、列車は止まっていた。
「あ、オレ新聞買ってこよ!」
言い終わらないうちから彼は動いている。
窓の枠に足をかけ、体は半分外へ出ているのだ。
いったい、どこから出て行くんだこいつは・・・。
「レインは?なんかいる?」
そう、問い掛けてくる頃には、彼はすでに駅に降り立っていた。
「ってお前はどこ行くつもりなんだよ?レイブン」
「ん?雑貨屋。大きい駅みたいだから、多分新しい新聞は入るだろうと思って」
「何でわざわざ外から行くんだよ?」
「ん、だってこっちの方が早いじゃん」
「ああ、なるほど」
外の方が走れるし、気を使わなくてもいいし楽だよな・・・確かに。
新聞とクッキーと、僕が頼んだ紅茶を持って彼は窓から帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
差し出された紅茶を受け取りながら、返事をする。
レイブンは嬉しそうに、にっこりと笑いながら席に着く。
「待ってるって、言ってたぞ」
「何を?」
「レインを」
「誰が?」
「シアさんが」
「誰それ?」
「雑貨屋のお姉さん」
・・・・・・・・。
あ…、ああ。
そういえば、何か買いに来いって言ってたな・・・。
「んでさ、まだ全然進展してないらしいぞ」
「何が?」
「昨日の事件」
「銀行強盗と王子失踪事件のどっち?」
「両方とも。強盗は王国警察隊、王子は王立警察隊がそれぞれ追ってるらしい」
王国警察隊というのは、この国が持っている警察隊で主都以外にも地方に配属されている。
小さな町でも最低1人は配属されていて、小さな事件から、大きな事件まで様々な事件に携わっている。他国と戦争を行うのもこの隊の役割だ。
そして、王立警察隊は国王個人が持っている警察隊だ。主な仕事は、城の警備や王家の人間の護衛など。あとは、今回のような王子捜索も彼らが行う。どんな事件でも王家が少しでも関われば指揮をとるのが彼らなのだ。
「んで、銀行強盗は単独の犯行らしいよ。オレはてっきり、どこぞの盗賊団の仕業かと思ってたよ」
「単独犯?もうそんな事まで分かってるのか?」
「らしいね。シアさんも言ってたし、書いてあるし」
そう言いながらレイブンは新聞を指差す。
そこには、大きな見出しがついていた。
『犯人は少数、もしくは単独犯!早くも事件解決か!?』
「結構早いな、捜査。まだまだ全然かと思ってた」
「いや、レイン、感想言うべき部分が違うだろ」
「それより、王子の方は?何か手がかり掴めてるのか?」
「ん~。何か、全然らしいよ。だからかどうか、わかんないけど、ひたすら王家について書いてある。」
「書くネタ無いほど、進展してないのか・・・」PR