「人間らしい?周りの人間は皆、口を揃えて第三王子は呪われた子だというぞ?」
「そりゃ、そいつらがおかしいって」
「お前がおかしいんだろ。ほら、ここにも書いてある」
そう言いながら、僕は新聞を読み上げる。
「第三王子のアイリス王子は、今年十六歳になる。これまでの家出の回数は二十回を越える。しかし、そのどれも主都内で、その日のうち発見されていた。しかし、今回に限っては手紙を残し、丸一日が経過した今も発見されていない。アイリス王子は兄弟の中でも特殊な性格をしている。世間からは、呪われた子供、気が狂ってるとか、まるで王子らしくない評価がついている。兄二人とは似ても似つかない。噂ではあるが、父親が異なるのでは・・・という話しもある。」
だいぶ飛び飛びに読んだが、意味は伝わるだろう。
「で?どこが、人間らしいにつながったんだ?」
「いや、だってさ、家出する事のどこが気違いなんだよ?オレに言わせりゃ、窮屈な世界から抜け出して、外の広い世界を見てみたい的な、感情丸出しな王子様が一番人間らしいと思うけどな」
「ふーん。別に家出するから、気違い呼ばわりされる訳じゃないと思うけど?」
「あれ?そうなの?」
「当然だろ。それだけの理由でこんな風に呼ばれたら、たまったもんじゃないだろ?・・・もういい、僕らが、今ここでアイリス王子について話し合ったってしょうがないだろ?」
「それも、そうか。んじゃさ、名前教えてよ。昨日、聞き忘れてたんだ」
やはり、話しの飛び具合が理解できない。
「ダレの?」
「そりゃあ」
「ん」と言いながら、僕を指差す。
「嫌だ。そもそも、人を指差すな」
「は?何で?」
「まず、あんたから名乗れ。それが常識だろう?」
そして、礼儀だと付け加える。
「ああ、そうね。オレはレイブン」
何故か嬉しそうに彼はそう名乗る。
「渡り烏か・・・ピッタリな名前だな」
「へぇ~。良く知ってるじゃん。なんか、昔の言葉らしいけど。で、お前の名前は?」
「レイン」
「レイン?どこの言葉?」
「お前のと一緒。古い言葉で雨って意味」
「雨ぇ?何で、またそんな名前なんだよ」
「そんなとか言うなよ。人の名前だぞ」
「ああ、そっか悪い、悪い」
「ちっとも、気持ちこもってないな・・・」
半ば呆れながらも、会話する。
「で?名前の由来は?あっ、オレのは旅好きのじーちゃんがつけたんだ。で、レインは?」
「忘れた」
「忘れた?そうゆうもんなの?」
妙に真剣になって聞いてくるのは少し怖いものがある。
「ああ。何しろ両親に会った事ないから」
「・・・・・・・」
向こうが黙れば、こっちも黙る。自然と僕らは沈黙に包まれた。
聞こえるのは線路を走る列車の音。
ガタン、ガタン・・・。
「・・・お前が黙るなよ。レイブン」
「あっ、悪い」
・・・何なんだ、いったい。
「お前に謝ってもらう必要はない。なあ、お腹空かないか?」
「あぁ~、そういや朝飯まだだったな!よし、一緒に食いに行こう。な?レイン」
多分、こいつも両親に会った事がないんだろうな・・・。
なんとなくそんな事を考える。
さっきの反応は普通じゃなかった。
「なあ、なあ、食堂車で食べようぜ。オレ、昨日は雑貨屋でサンドウィッチとコーヒー買って屋根上がったんだけどさ・・・。ぶっちゃけ、ちょっと食べづらかったんだよねぇ~」
なるほど、それでこいつ屋根の上にいたのか・・・。
やはり、彼の事は理解できそうも無い。そもそも、あんなところで何かを食べようと考える思考は普通ではありえない。
そういえば、昨日は何も食べてないな・・・。
と、結構大事な事を思い出す。
「じゃあ、行くか・・・食堂車」
PR