さくらの便り 8
「分かった、納得した
そこまで考え付かなかったおれがバカだった。
ってことでさっさと行こう」
二人の話を聞いて
一番何も考えていないのは自分だと気が付いた。
余計な事ばかり考えている場合ではない。
そもそも、なんでこんなところにいるのかというと
おれが持ってきた桜のハガキから始まっているのた。
持ってきた張本人がこれでは情けない。
「ソウ、こっち」
「え?」
二人を置いて歩き始めたおれに意外な声がかかる。
追い抜いた二人を振り返れば、シンが自分の進行方向とは
全く違う方向を指差している。
「ソウ、恥ずいな~」
笑いながら茶化すクギ。
シンはいつものあきれ顔。
情けない。
「こっちからも行けるんだ」
「だったら早よ言え」
小さく呟けばシンからもかすかな笑いが漏れる。
シンが言うこっちとは本堂の方だ。
上ってきた坂道を下らずに
本堂の前へと歩を進める。
道がないと思われたそこは
確かに通り抜ける事ができる。
「シン?」
そのまま真っ直ぐ行くのかと思うと彼は何故か立ち止まる。
おれとクギ不思議そうに眺めるのを気にする素振りも見せずに彼は
そっとお辞儀をすると軽く手を合わせた。
予想もしなかった行動。
同い年のはずの彼がとても遠い存在に思える。
ほんの数秒だけ視線を落として何かを願ったシン。
「教育がよく行きとどいてます事」
「別に、祖母の影響だ」
クギが感心しながらもシンを茶化す。
シンはそれを軽くあしらい何事もなかったように歩き始めた。
「見かけによらないな」
「お互い様です」
本堂を見上げて意味もなく立ち尽くしていると後ろを通り過ぎながら
和武さんが声をかけてくる。
軽く返したシンに引きつった笑みを零しつつも
次にはまったく別の言葉を発する。
「俺も兄貴に聞いてきてやるよ」
彼の言葉に疑問符。
それは3人とも同じだったらしく
だれからも反応がない。
「放置されるような骨壺に覚えがあるかどうか」
「あ、あ~。ですよね。お願いします」
どこか間抜けなおれの返事。
「まあ実際持ち主見つかんないと、面倒だしな」
そう言って彼は小走りに本堂前の階段を駆け下りてゆく。
「あの人、どっか出かけるつもりじゃなかったのか?」
去りゆく背中を見ながらクギがのんびりと発言する。
「逆だろ?帰ってきたとこだと思うけど」
「あーそうか」
二人の会話にまたもついて行けない。
しかし彼らの視線の先を見れば答えは簡単だった。
視線の先にあるのは先ほど通過した駐車場。
1台だけだった車が2台に増えている。
彼を見送って再び歩き始める。
少し行けば
水道があり傍の棚には
手桶と柄杓が乱雑に並んでいる。
墓参りに行くと自分は必ず水を持つ係だ。
そして姉と妹がそれぞれ花を持ち
従兄が線香と新聞紙を持つ。
今気が付いたのだが
自分が一番しんどい役だ。
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