さくらの便り 12
考え始めたおれの後ろで
気のせいか深いため息が聞こえる。
なんて言うか今すぐ謝りたくなる感じのため息。
「本貴さん、とりあえず彼を解放してください」
おれの横に来て本貴さんにそう話しかけるシン。
彼は思い出したようにおれの両肩から手をどけた。
「これ」
そう言っておれの目の前に何か差し出される。
近すぎてなんだか良く分からない。
「手紙?」
目の前のものを凝視してその見慣れた形・大きさからそれが何かを判断した。
何より封筒にはしっかりと宛名が記されている。
「それは…」
正面で小さいが、確かに声がする。
気のせいか、彼の表情は驚きを表していた。
「すみません。俺が取りました。
でも、これは彼宛でいいんですよね」
確認するまでもないだろう。
しっかりとおれの名が書かれているそれはいったい何なんだ?
「ソウ、どこにあったと思う?」
いつまでも受け取らないおれに痺れを切らせたのか
シンは手紙をおれの前から引っ込め悪戯っぽく笑いながら尋ねてくる。
何でシンはこんなに楽しそうなんだ?
「あ!あ~」
と声を上げたそばから納得しているのはクギだ。
そんな彼の表情もどこか楽しげだ。
そんな二人の状況から考えると答えは一つ。
「骨壺の中?」
「正解」
ニヤリと笑いながら彼は言う。その言葉で思い出す。
彼がそれを骨壺の中から取り出しておれに渡そうとしていた事を。
しかし、和武さんが来たために彼は慌ててそれを仕舞って持っていたのだろう。
「どうして、きみが?」
本貴さんが途切れながらもシンに尋ねる。
完全にシンに負けている。
何がどう?と聞かれると分からないがともかく負けている。
常に負けっぱなしのおれからすると彼の気持ちは良く分かるが説明はできない。
「そうですね。話すと長くなると思うんですよ。
お互いに」
どこか意味深なシンの言葉。
「じゃあ、ウチの本堂を使うといい。座って話せるし茶を出してやるよ」
それに対して軽く提案したのはいつの間にか追いついたらしい和武さんだ。
「兄貴、構わないだろ?」
どこか置いて行かれた感が漂う住職は弟の言葉に頷くだけだ。
「いいんですか?」
「構いませんよ。そうだね。きみを信じよう」
「ありがとうございます」
シンがもう一度尋ねると住職は今度ははっきりと声に出してうなずいた。
しかしそれに続く言葉は少し意味がわからない。
「どこの子供かもわからない連中を本堂に入れてましてや、
相談に来た人間と話をさせるなんて普通に考えたら避けようとするだろ」
話が飲み込めてないのがバレたのかシンが説明してくれる。
なるほど。
確かにその通りだ。
「で、気になるんだけど。シンって何者?このお寺とどんな関係?」
来たときからずっと気になっている事だ。
「そうそう、めっちゃ知ってるじゃんここの事でも、シンの身内ってまだだよな」
「変な言い方するなクギ。聞いたって大した理由じゃないぞ」
「気なるから知りたいけど。期待はしてないから大丈夫」
クギの言葉にシンがぴくりと眉を動かす。
「誰が言うか」
若干低めのシンの声。
理由を聞くのは諦めた方がいいらしい。
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