さくらの便り 17
「その、幼い子どもたちというのがお前たちだろう?ソウ」
最後まで視線を外すことなく俺を見ていた彼の眼を見ながら問いかけた。
しかし、彼の瞳にはなにも映っていない。
必死に思い出しているのだろう。
「そうだよ」
返事をしたのはソウではない。
声のした右を見れば顔を上げ、ソウと同じように俺を見る男と目があった。
「桜のある広場が彼らの遊び場だったらしく
その日もそこで遊んでいたらしい。
けれど、何を思ったのかうちの咲夢が桜の木の下を掘り出した。
それを蒼くんも手伝って二人で見つけた」
さきほどまでとは態度がだいぶ変わった。
どこか落ち着かない様子でいたが、今聞いた声からはそれが消えている。
しかし、「らしく」とか「らしい」とか曖昧な表現ばかりなのが気になった。
「きっと、俺が話したのと同じものを学校かどこかで聞いたんでしょう。
あのあたりでは有名な話らしい」
「へぇ~、オレは初めて聞いた。
あ、でもその事件は覚えてる。結構近所だったし、親が騒いでたから」
「でも、なんでそんなことがわかったんだい?」
「桜の木の下に骨壷が置いてあるのを見て、
なんとなく思い出したんです。でも、最初はソウとはつながっていませんでした。」
桜と骨。
簡単なインスピレーションだった。
そのなんとも不釣り合いな組み合わせが記憶を呼び起こすなんてごく簡単な事だ。
その事件とソウが繋がったのは
ただ単純に身近に当てはめてみたら偶々ぴったり合ってしまったというだけだ。
極端に骨壷に近づかない彼を見て
どうしてそこまで拒むだろうかと不思議に思ったのがきっかけだ。
確かに見たり触ったりするのは気持ちのいいものではない。
しかし、いくら他人のもので、どこの誰ともわからないものだからといって、
あそこまで嫌悪感を抱くものだろうか?と考え
もしかしてと仮定した。
全ては仮定と想像の繰り返し。
「桜の下には人が埋まってるってサクが言ったんだ」
「ソウ?」
突然、小さな声で話しだすソウ。
当然全員の視線が彼へと動く。
それに気づいたソウが居心地悪そうに身じろいだ。
そして俯いてしまう。
確かに見られるというのはいいものではない。
俺が態と視線を外すと何故かクギと目が合ってしまった。
考えていることが一緒だったと気が付き互いに苦笑が漏れる。
「仲がいーんだね。二人とも」
どこか投げやりなソウの声。
「…無駄に長い付き合いなだけだ」
一瞬意味を理解損ねるが彼の言葉を反芻しとりあえず否定する。
「あら?だからこそ仲良しなんじゃん」
楽しそうに弾むクギの声。
「仲良くなった覚えはないぞ」
否定しても意味がない。
けれど肯定するのも何か腹が立つので絶対にすることはない。
「はは、シン。こんだけ一緒にいてそれはないでしょ?」
どこか乾いた笑いを洩らし、もっともな事をソウに言われ
そればかりは否定のしようがないので彼を巻き込むことで話を逸らす。
「それはお前も一緒だ。ソウ」
「え?おれ?」
「そうそう、そんな訳で。安心して本題に入っていいぞ」
ニッとクギが笑いながらソウの肩を叩く。
「3人とも仲がいいんだね」
そんな第三者の言葉で場が収まる。
否定しようかと彼を見たがあまりにも優しげに笑っているので出来なかった。
そこに何気なくできた静寂。
「おれはサクの言葉を否定したんだ」
それを見計らって
何の前触れもなくソウの話は始まった。
「否定しなきゃよかった。
おれがあまりにも否定するから、サクが掘ってみようって言ったんだ」
「それでホントに出てきちゃったんだ?」
「なんかお前が言うと軽いな」
クギの言葉にソウがどこか嫌そうに彼を見る。
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