さくらの便り 19
「彼はずっと気にしてたんだ」
「でも何で手紙出してなかったんだ?」
もっともな疑問を出すソウ。
想像したことでなら答えられるが本当の答えはもう出せない。
「事件の事を思い出すことになるから
出すに出せなかったんだろ。案の定お前は忘れていたし」
「でも…」
言いよどむソウ。
他に幾らでも理由をつけられる。
けれどきっと二人のためにはこれが一番いい。
「出てきた遺体についてはなにか知ってるか?」
どこか落ち込んでしまった場を誤魔化すために話題を変えた。
話はまた終わっていない。
「え?…知らない」
「若い女性のものだったらしい。どこの誰って事までは忘れたけど」
「それって」
「お前らの夢に出てきた女性、だろうな」
はっきりとした事はわからない。
それでもそうした理由をつけてしまったほうが話は綺麗に片付く。
「ついでに、犯人は俺達が桜の話を聞いた男だった」
「うっそ」
「彼らは婚約していたともニュースで言ってたな」
『大好きだったのに』は桜にかかる言葉なのか、男に対してかかる言葉なのか。
今となっては誰にもわからない。
もしかしたらソウへの最後の手紙に書いてあるかもしれない。
すべては仮定と想像の繰り返し。
美しく咲く桜
その下に殺害され埋められた綺麗な女性。
その血を吸って咲いた桜。
人の血を奪いし生ける花と名付けられた桜。
繰り返された過去。
現実に何が起こっていたかなんて
ほんの少しだけ関わっただけの俺が知る筈がない。
「ソウ、ちょっとここで待ってろ」
「え?」
「来たからにはするべきだろう?」
「お墓参り?」
何を?とは聞かなかった彼に少し関心した。
主語のない言葉に困惑すると思えたがどうやら同じことを考えていたらしい。
「正解」
「線香と花を買ってくる。その前に俺の個人的な用事を済ませてくるからお前はここで待ってろ。
それでも読んで。行くぞクギ、本貴さんもついでなんで付き合ってください」
彼の手の中にある最後の手紙を示し、俺はさっさと立ち上がる。
半ば無理やりに他2人を立たせ本堂を後にした。
「どこまで行くんだい?」
寺を出たところでそう話しかけられる。
「駅前のコンビニです」
「あそこまで戻るのかよ」
「時間があった方がいいからな」
どこの寺もだいたい花も線香も売っている。
わざわざコンビニまで行かなくとも近場で事足りるのだ。
でもそれではソウを1人にしてやる時間が短すぎる。
それに寺で売ってる線香はあまり好きではないという個人的な好みの問題もあった。
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