さくらの便り 24
「んじゃ、あの暗号めいた文については?」
自然と落ちた沈黙をクギの妙に明るい声が壊した。
「えっと、なるべく短くしようと思った結果だって」
「は?」
シンが心底呆れた声でおれの顔を見る。
「…サクくんは変な子?」
そして、微妙な沈黙後のクギの言葉。
「クギに言われたらお終いだな」
クギの言葉にシンが冷静なツッコミ。おれとしては何とも言い難い。
「ん~。ほら、サクの中では手紙は出されてない事になってるからさ。
あの文についてはそれしか書いてなかった」
水の入ったコップをとり、それを飲む。気がつけばもう空だ。
「前にも手紙を書こうと思ったけど、何を書いていいか分からずに短く書いたら暗号めいちゃって…
結局出すのを止めたって」
「そっか、手紙親父さんが勝手に出したんだもんな」
クギの言葉にうんと頷いてから、自分の中の疑問を彼らにぶつけてみる。
「んで、おれが不思議に思ったのは、何であの桜の写真だったのかなーって」
「それについては俺が聞いた」
「え?いつの間に?」
「お前が、コンビニで無駄に迷ってる間に」
「あー、あったねそんな事。お、やっと来た」
他人事のように言うクギ、それを睨むシン。
どうやら相当待たせていたらしい。
しかし、睨むシンなどまるで無視してや料理をもって来たウエイトレスを笑顔で迎える。
「ハンバーグステーキでございます」
営業用スマイルを乗せたお姉さんが3人に視線を巡らせる。
「あ、おれです」
「温泉卵と生ハムのカルボナーラでございます」
「はいな」
おどけた調子でクギが手を上げるが、気のせいか彼女の視線はシンに注がれている。
それに気づいているのかシンは不機嫌モードだ。
やってきた料理はその2品。
「すぐ来るだろうから、食ってていいぞ」
「すぐ来るなら、待ってるよ」
「同じく」
シンが当然のように言うが、せっかくなのでみんな一緒に食べ始めたい。
おれの言葉にクギも同調した。
「チキンオムライスでございます」
すぐに先ほどの女性が料理を持ってやってきた。
気のせいかその表情はさきほどの営業用スマイルとは異なっている。
器用に片眉だけを上げるシン。その横で笑いをこらえるクギ。
うん、わかるよお姉さん
。料理を置いて去った彼女の背をおれが見送っているとクギが楽しそうに笑いだす。
「くっくく…モテるね~。シンくん」
「いただきます」
クギが笑っているのなんてまるで眼中にないようにシンが丁寧に手を合わせる。
完璧に存在を無視している。
「ま~す」
しかしクギはそんなこと全く気にせずに、明るくシンの言葉を省略してすぐさま食べ始める。
「略しすぎだろ…」
おれは、そんなクギにツッコミつつ、軽く手を合わせるだけでフォークとナイフを手に取った。
でもあれだ。
これが、向こうのファミレスでの出来事だったら、遠慮なく話しかけられていたと思う。
少しばかりだが、高級感のあるレストランだからこそ従業員の教育が行き届いているんだろう。
あ、もしかしてそれが原因か?
そんなことを考えながら黙々と目の前にあるものを食す。
何故か3人とも黙ったまま。
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