さくらの便り 13
本堂に案内されそのまま床に座り込む。
椅子を出すと言われたがそこまで手間をかけさせるのは申し訳ないのでおれが全力で断った。
お茶だけは喉が渇いていたのもあり有り難く頂いておいたが
茶菓子も出すと言われたが、それはシンがきっぱりと断っている。
そしてその場にはおれ達3人と本貴さんの4人が残された。
和武さんが興味ありそうにしていたが住職に半ば引きずられるように連れて行かれた。
「で?」
と全員で車座になった状態で第一声を発したのはおれ。
もっとマシな言葉を選べばいいのになぜか一文字。
おかげで右側に座るシンに思いっきり馬鹿にした表情をされた。
左に座るクギが小さな声で何か言っていたが
シンが放つ不穏な空気が気になって聞き取ることは出来なかった。
目の前に座る本貴さんはものすごく居辛そうにしている。
「ソウ、本当に覚えていないのか?」
シンが改めてそう切り出した。
おれは目の前の人物をこれでもかと観察してから首を振る。
「私と君はあまり会っていないからね。
私よりも妻の方が記憶にあるだろう」
何度か遊んだこともあるんだが…
最後にそう小さく付け足して俯く本貴さん。
そうは言われても情報が少なすぎる。
本貴という名に覚えも無いし彼自身にも会った覚えがない。
「子どもの名前は?
いくらなんでも、一緒に遊んだ相手の名前は忘れないだろ」
シンがどこかイラ立たしげに言葉を促す。
どうやら、彼らは相性が悪いらしい。
「蒼くん。覚えがないかい?
昔…そうだなきみが6歳ぐらいの頃まで近所に住んでいたんだ。本貴咲夢という名を」
「やっぱり」
本貴さんの言葉を聞き、声を洩らしたのはシンだ。
しかし、今はそんなことよりも出てきた名前の方がおれには大事だ。
「サクム…?
サク…ム?っサク!サクか!!」
「だれさん?」まったくの蚊帳の外にいるクギが疑問の声を出す。
「花が咲くの咲くに夢って書いてサクム。俺がさっきサユって読んだやつだよ」
「へぇ~」
「って事はサクのお父さん!?」
二人の会話など無視しておれは自分の言いたいことを言う。
「ああ、そうだよ」
「何だ、早く言ってくれ、ださいよ」
「構わないよ。話しやすいように話してくれて」
無理やり敬語に直そうとしたのがいけなかったらしい。
苦笑されながらそんなことを言われてしまった。
彼のことはやはり記憶にないがサクムという名なら覚えている。
近所に住んでいた2コ上の幼馴染だ。
「サクは、サクは元気!?」
なんだか懐かしい。
嬉々としてそう尋ねるのだが本貴さんはあからさまに視線を落とす。
あれ?
「6年前に?」
黙り込んだ本貴さんにシンが静かに問いかける。
それに対して彼は大きく頷いた。
「何?」
二人のやり取りがわからない。
理解したくない。
「実はね蒼くん。咲夢は病気だったんだ。あの子の入院のために病院の近くに家族で引っ越したんだ」
「病気?」
その言葉を聞いてもまるでピンとこない。
だってサクはおれと一緒に走り回ってなかったか?
一緒に…あれ?
なぜか違和感が付きまとう。
一緒に?
頭の中には何の映像も浮かばない。
「思い出せない・・・」
「ソウ?」
ポツリと零したおれの言葉にクギが不審な声を出す。
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