さくらの便り 10
「ソウ、ちょっと来てくれ」
どれくらいの時間が経っていたのかは分からない。
階段に座り込んで
遠い空を眺めながら考えていた。
思い出していたという言葉の方が正しいが
生憎、モトキサユという名には覚えがない。
名を呼ばれ、顔をあげると
そこにはシンが立っている。
「見つけた」
「何を?」
「…お前、寝てた?」
「まさか、そんな」
二人が必死に探しているであろう時に
一人のんきに寝ているなんて。
想像しただけで後が怖い。
「あ、墓?」
「そうだ、馬鹿」
「ですよね」
もう少し考えてから言葉を発しよう。
彼らとつるみ出してから何度も思ったことだ。
何度も思っている時点でまったく実践できていないのだが…。
すたすたと先を行くシンを慌てて追いかける。
十数段の階段を降りると墓が広がっており
それが何度か繰り返されて構成されてる墓地だ。
例えるなら少し広めの段々畑。
「夢と桜と聞いて何か思い出す事は?」
2エリア下がった場所にそれはあった。
本貴家の墓
と書かれた墓を横目に問われるが
それが分かっていれば今現在ここにはいない。
「ソウ、お前記憶喪失とか?」
「いや、そんなことないと思うけど」
「シン、何で急にこの本貴さんなんだ?」
シン一人がすべて分かったような空気。
クギの質問に対しておれも頷きシンに答えを求める。
「お!いたいた、お前らちょっと付き合え!」
一瞬生まれた沈黙の間にお構いなく入ってきた声。
声のした方を向けば和武さんだ。
「クソ坊主」
小さく言ってのけるのクギ。
シンはほぼ反応がない。
「どうすんの?」
「行くしかないだろ」
おれの問いかけに答えたのはシン。
当然のように歩きだした。
「何の用ですか?」
「分かったぞ、あれの持ち主」
「うっそ!」
クギの言葉に彼は自信たっぷりにはそう言った。
「兄貴のとこに客が来ててな。その人のもんらしい」
「客?」
話の流れ的に単純に疑問に思った部分を取り上げるが
別に興味はない。
あえて言うなら骨壺をあんなところに置いて行った理由が知りたいが。
「どこの誰さんまでは分かんねぇよ」
「本貴さんだろ」
和武さんのどこか不機嫌な声を気にすることなく
シンがさらりと名を出した。
「モトキさんって、墓の本貴さん?」
「他にどの本貴さんがいるんだよ」
クギの疑問の声も当たり前だと言うように一蹴する。
今、一番謎なのはシンの頭の中なのかもしれない。
「会えますか?」
「え?兄貴の客に?」
シンの言葉は益々分からない。
分からないのは和武さんも一緒なのだろう。
「ええ」
「たぶん、平気だろ」
「今も向こうに?」
「いや、もう骨壺回収に向かってる」
「急ごう」
「え!?シン!ちょっと待った」
「いや~、頭がいいのがいると楽だね~」
「クギ、訳分かんないこと言ってないで行くぞ」
「あいよ~」
走り出すシンを追いかけ墓を後にする。
結局何も聞けないまま。
とりあえず、気が付いた事は
いつの間にかここに来た目的が
骨壺の持ち主探しになっており
絵葉書の主なんて遠の昔に忘れさられていたという事だ。
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