さくらの便り 4
「ほら、見えた」
車が2台通るのも難しいと思われる道路に入ってすぐ
もっと狭い道の先に寺の入り口が見えた。
「墓は、あっちで正面行くと本堂
そこの左に行くと駐車場がある。」
お寺の敷居をまたいですぐにシンが説明を始める。
彼が指さす順に視線を送ってみると
すぐ右側には地蔵が六対存在しその奥に
小さく狭い道がある。
きっとその奥へ行けば墓地にいきあたるんだろう。
正面には階段を上がったところにいかにもといった立派な建物。
その少し左側は坂道になっており、その先が多分駐車場。
「で、問題の桜は
駐車場の奥、本堂の左側」
「へぇー」
クギが関心しながらあたりをきょろきょろとみ見まわしていた。
寺としては一般的なものとは何ら変わらない。
「昔は小さな公園で
遊具があったけど、いつの間にかなくなってた」
「ん?シンは前からこのお寺に来てたの?」
「来た事があっただけ」
「ふーん」
多くは語ろうとしないシンに少し不満げなクギを置いて
一人、シンが歩き出した方について行く。
「坂道、キっつ!」
「ソウ、煩い」
「シン、そんな何でもないような顔して…」
真っ直ぐ立ってるのもままならないような坂。
ほんの少し上っただけなのに体温が上昇したのが分かる。
こんなトコ車が走るのかよ。
少し疑わしく思いながらもシンについて行くと
すぐ左手に広いスペース。
車が1台だけ存在していたのでここが駐車場だと分かる。
この車がなければ駐車場だとは分からなかった。
なぜならばそこには物干し竿が4列にわたって存在し
洗濯物が干されているのだ。
なんか、家庭的な寺だな。
「ぐわ」
しばし、呆然とそれを眺めていると
肩にぐっと重く圧し掛かってくるものがあった。
「オレを置いて行くなんていい度胸じゃん、ソウくん」
「おれには文句あっても、あっちにはないのかよ?」
一人ひたすら先を行くシンを指差すと
クギは一度そちらに視線をやる。
「シンに何か言って通じると?」
そう言われて、クギから我が身を解放しながら
その状況を考える。
ダメだ。
お前らが悪い。
の一言で終わりそうだ…。
駐車場のさらに上
つまり同じように急な坂が少しだけ続いており
その先に桜があるらしい。
シンが坂のてっぺんで
立ち止まっているのが見える。
最終的に
完全に置いて行かれている訳だが
そこは別に気にするべきではない。
クギが歩きだし、自分もそれに続く。
そしてすぐにそれは見えた。
「満開じゃん」
見事に花を付けたそれは
一言で言うならば美しい。
少し駆け足でシンが立つ横に並んだ。
知っている通りの名ならば
枝垂れ桜。
詳しくはないから
違うかも知れない。
葉書の中のそれと見比べた。
「同じだね」
横にいるクギがそう言いながら
目の前の桜を両手を使って四角の中に閉じ込めている。
全然違う。
確かに背後に映る木とか
柵とかそういったものは同じだが
桜から感じるものが全く違う。
圧倒的な存在感とか
生命力とか
妖艶とも清楚とも言えるその美しさ
こんなにも違うものか。
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