「んじゃ、次は親父さんの部屋か。」
「・・・・・・・・。」
「って、いきなり黙るなよ、お前。」
母さんの部屋がこの状態だったのに、父さんの部屋が正常な状態という保障がどこにある?
もしかしたら、中は空っぽなのではないだろうか?
父さんの部屋は入った事も無ければ覗いた事もない。
言うならば、未知の領域…。
「かなた?」
「見た事ないんだ…。」
「何を?」
「父さんの部屋。いつも鍵が掛かってた。」
この鍵だって、父さんが身につけていたものだ。コレ以外は他に存在しない。
思い切り鍵を握り締めながら、歩き始める。
いつまでも、母さんの部屋にいるのもつらかった…。
「また、閉めんのかよ?」
「ああ。なんとなく…。この方がいいと思って。」
「ふーん。」
だって、自然に手が動いてた。全然意識していなかったのに…。
父さんの部屋に前に来ると、再び体が動かなくなった。自分の意思とは関係の無いところで、動きを制限している。何度も、腕を持ち上げようとするのだが、思うように手は動いてくれない。横にいる永夜は、ただ立っているだけで何かしようとはしない。
ドアを睨んだまま、動かない僕を不思議に思わないのだろうか?
「あっ、悪い。」
「え?」
「オレ、トイレ行ってくる。」
「あ、ああ。」
何とか、返事をして、トイレへと向かう永夜の後姿を見送る。彼が、姿を消したのを確認すると、何故か急に全身の力が抜け、思わず座り込む。
両膝を抱え込み、頭を預ける。
目を瞑り、息を思い切り吐き出す。
頭を上げ、壁に背を預けて座っていると、思ったよりも早く永夜が戻ってきた。
「何やってるんだ?かなた。」
「いや、ちょっと。」
座ったまま見上げている僕に、永夜は不審を抱く。僕は、答えようが無く視線をそらした。
「ほれ。」
すると、手を差し出される。
「なに?」
意味が分からないと、疑問の声をあげるとそのまま腕を掴まれた。
「いつまで、座ってるんだよ。そりゃ、待たせたオレが悪いが、座り続けられるのは大変むかつく。」
「ああ、なるほど。」
「なるほど、じゃねぇよ。」
よっと。
足に力を入れ、永夜の助けを借りて立ち上がる。彼とくだらない会話をすることにより、先ほどのような、おかしい緊張はなくなっていた。
PR