「んで、何出すんだ?水か?」
「いや、別に水はいらない。卵…」
「はあ?卵ぉ?何に使うんだよ、んなもん。」
「最後まで聞け、バカが。」
「ひどっ。」
最後まで聞かない方が悪いに決まってる。卵なんて、今どう考えても必要なものとは思えないじゃないか。
「で?何?卵がなんなの?」
「その、卵が入った容器上げてみん。ああ、くれぐれも卵は落とすなよ。」
「よっ、っと。…うわ、マジかよ。へそくりじゃあるまいし…。」
「中々、面白いところに入ってるだろう?」
「普通、鍵をこんなところにしまう人はいないと思うけど?」
少し、呆れた様子の永夜は無視して、鍵を受け取る。
思わず握りしめた鍵からは、キーンとした冷たさが伝わってくる。
最初は、母さんの部屋からだな…。
「あっ、永夜!卵戻しとけよ。」
永夜に命じておいて自分はさっさと廊下に向かうが、ふっと思いなおして部屋から出ずに彼を待つ。
「はいよ!ったく、人使いの荒いパートーナーだな。」
「聞こえてるぞ、永夜。」
リビングのドアに寄りかかり、彼を待つ。
「げっ。まだ居たの?」
「待っててやったんだ。」
いざ、開けるとなると、やっぱり気が進まない。
部屋の前に立つと、やはり胸が痛み出す。
鍵を持った手が震えてくるが、そんなのは無視だ。なぜ、ここまで自分の体は拒否を示すのだろうか?
「大丈夫か?」
黙ったまま、動かない僕を不信に思ったのか永夜が声を掛けてくる。
その言葉をきっかけに、僕は返事をせずに動き出す。
玄関なんかよりも、何倍も硬く感じる鍵を回そうとするが、なかなか鍵は動かない。
もう少し、力を込めてゆっくりと動かす。
何か引っ掛かりが取れたような感触がして、鍵が開いたことが分かる。
鍵を差したまま今度は、ドアノブに手を掛ける。
思ったよりも軽く回って、自分の予想と違い驚く。
錆び付いてるかと思ってた…。
一連の動作をするのに、ものすごく時間を掛けた気がするが実際は、永夜が一言も文句を言わずに待っていたのだから、そんなに掛かっていないだろう。
そんなことを考えながら、ドアを押し開ける。
「「・・・・・・・。」」
ドアの向こうに広がった世界は意外なものだった。
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